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数日後、会社にいる僕の携帯に病院の着歴があった。もしかして、という嫌な予感で電話に出ると、
「先日、登録されたあしあとドナーが見つかりました。今から1時間、使用できますので、病院にお越しください」
と看護婦からの嬉しそうな声が聞こえてきた。
僕は早退届けを出して、すぐに病院に向かった。
病室に入ると、母親がベッドに腰かけていた。
「会社は大丈夫だったのかい?今日は歩ける日だそうだよ。チューブも外してもらったんだよ。」
むくんだ母親の顔はそのままだったが、トレーナーの上にカーディガンを羽織った姿は、自宅にいた時と変わらない。
「本当に、歩けるのかい!?」
僕は思わず、母親に手を差し出した。
「大丈夫だよ、そのかわり、1時間だけの外出許可らしくてね。少し、近くの川べりでも散歩してみるかい?あの桜が見たいんだよ。」
差し出した手をとった母親と川べりの満開の桜を見に出かけた。体力が落ちているからか、ゆっくりしか歩けなかったが、母親は至極ご機嫌だった。
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