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「解ってるわよ、そんなこと。マルBの手口じゃないもん」
それくらい見れば解るわと、夏帆は肩をすくめる。「あんたが自分の手を汚すとは思えないし、殺しなら他人にやらせるでしょ? そもそも、暴力団はどんな依頼だって、自分たちの安全が担保されず、尚且つ得にならないことはしないわ」
まあ、その理屈なら夏帆への襲撃も割に合わないと思うが。遠くからパトカーの音が近づいて来る。こいつらの身柄は長野県警に引き渡すことになるが、先日のように中野東署に引き渡すだけに留まらず、本部の組織犯罪対策課や監察室も動員して、徹底的に叩いてもらわないといけない。その辺、和泉はちゃんと根回しをしてくれているはずだ。
「田島信彦は、どうしてあたしを狙わせたの?」
「さあな」児島は一息つく。「タバコくれよ」
「ダメよ。理由も知らずに、こんなこと、引き受けるわけないでしょ?」
「信彦は大事な坊ちゃんだ。恩を売っておくに越したことはない」
「先々の利益のための投資ってこと? じゃあ、動機は知らないの?」
「女刑事を黙らせろって言ってきただけだ。コインランドリーの一件で、あんたの強さは解っていたから、今回は六人に増やして、全員で痛めつけたあと、ワシが適当な理由を付けてお前を逮捕する予定だった。地元のヤクザと揉めた挙句に、逮捕されたとなれば、警視庁も引き上げの指示を出すだろ」
「そんな思惑どおりにはいかないわよ?」
夏帆が言うと、児島は自嘲気味に顔を歪めた。多分、こいつは信彦が襲撃させた動機を知っている。だが、自分に利益のない今は口を割らないだろう。ここに時間を割いてはいられない。夏帆は田島孝輔殺しの情報を引き出すことに、方針転換する。
「田島孝輔が死んで、得するのは誰?」
「嫁じゃないのか。でも、嫁にはアリバイがあるんだろう?」
「田島秀子ね。どうして、彼女が得するの?」
「若院長――田島孝輔は後継ぎのために結婚させられた婿養子だ。それに、次の後継ぎは信彦だから、秀子としては面白くないだろう」
「損得って言うか、怨恨ね?」
「まあ、そうだな。それに若院長は患者思いの熱心な医者だったからな。患者に好かれて、嫉妬もあったんだろう」
「孝輔は、病院の利益なんかは考えない人物だったら、あんたたちにとっては目障りだったんじゃない?」
「いや、そうでもない。医師の仕事にしか興味のないような人間だったから、経営は先代や嫁に任せきりだったからな。俺たちの利益にはならないが、邪魔にはならない」
なるほど、では児島の交渉相手であり不正な利益を共有していたのは、幸三、秀子、信彦といった田島の血族だったわけか。
「孝輔は、独立するつもりだったんでしょ?」
「それは身内の揉めごとだ。ワシらには関係ない。ドクターカーの導入を進言されたとき、先代は、《身の程知らずめ》と怒り心頭だったが」
「だからって、殺すとは思えないわよね。じゃあ、信彦に動機は?」
「ないと思うが。親子関係までは知らん」
「じゃあ、信彦の秘密は?」
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