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初犯の犯人は死んでいる、か。
田島の話を全て真に受けるつもりは無いが、確認はしてみるべきだ。
初犯の被疑者。足取りが掴めず、嫌疑が残っているのは山代一馬だけだ。
足取りが追えなくなったのは三人目の被害者が出た日。行方不明が何を意味するのか。
「志津さん。五人目の被害者、佐々木岳明の初犯からの足取りを改めて調査しました」
「ありがとう。助かる」
部下が纒めた情報に目を通す。
佐々木岳明は初めての男性被害者。なぜ彼が被害者になったのか。彼はどのように事件に関係するのか。
連続殺人で例外が生じたのなら、そこをもっと詰めるべきだった。
その後の事件が立て続けに起こった事もあって万全の捜査が行われたとは言い難い。
埋もれさせてしまったのはミスだ。
「小さな畑もある古民家に一人暮らし。足取りに空白が覆いのは仕方ないが--三人目の事件から車を使っていないな」
「翌日に洗車をしていたそうです。珍しいので覚えていた、と話を聞いた方から」
「他に何か聞いたか?」
「いえ、特には」
「そうか。些細なことでもいい。この日と翌日の様子についてだけもう少し聞き込みを頼む」
「わかりました」
「それと、佐々木の外出中の足取り、車での移動経路の確認を依頼してくれ」
「はい。すぐに」
「よろしく頼む」
作業を頼み、こちらは事件の調査報告と向き合う。
改めて確認するのは死体の状況だ。
同一犯である可能性が高いと考えている理由。それは死体の傷が理由だった。
大腿部、腹部、胸部、上腕部に一定の間隔、深さで刃が入れられている。この手管が全ての被害者で共通していた。もちろん非公開の情報だ。
その中で五、八人目の被害者の遺体は他の遺体よりも乱雑な扱いがされていた。その点では模倣犯の可能性はあったが手口があまりに酷似しすぎている。
例外的な標的が犯行に影響を与えたと、そう考えた方が自然ではないか。
そこに確信めいたものを感じるのは何故なのか。
俺は同一人物の犯行だと思いたがっているのか。
凶器は刃渡り20cmを超える刃物。おそらくは包丁の類。
「包丁か」
「どうかしました?」
近くを通った同僚に尋ねられて、思わず苦笑する。
「いや、すまない。事件とは関係ないことだ。最近、家の包丁が切れ味悪いことに気づいてな」
「あー、そういうのって気になってるとふとした瞬間に思い出しますよね。新しいの買ったらどうです?」
「そうだな。余計なことに気を取られるのも馬鹿らしい。さっさと買うことにする」
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