肉切

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 翌日の調査結果を受けて、佐々木家の捜索を行うことに決めた。 「成果あり、だったな」  佐々木岳明の自宅から遺体が発見された。庭の畑に埋められていた形だ。  遺体は、被疑者である山代一馬のもの。 「被疑者が死んでいた」  自宅のキッチンで一人、思案に耽る。 「殺したのは佐々木。雑な洗車では落としきれなかった事故の痕跡があった」  佐々木が山代を車で撥ねて殺害したのは、ほぼ確定だ。調査した上での話として。 「田島は正しかったか。事件が続くのは、山代が犯人ではなかったから。犯人は別に居る」  だが、その事実を受け入れがたいと感じてしまう。 「山代は犯人であったはずだ。少なくとも三人目までは、山代の犯行が一番可能性が高い」  まな板の上乗せた1Kgのブロック肉に新品の包丁を落としていく。 「では、その後は? 模倣犯による仕業だと? あの手順に沿ったように作られた遺体を模倣したと。それに、あの切断面。あれほど的確に刃を人体に入れられる人間が何人も居るだろうか」  すっと包丁が肉を通りブロック肉が二つに分けられる。 「だが否定してどうする。山代の亡霊が殺人を犯しているなんて馬鹿な話をするのか。田島だって笑い話にした話だ」  ブロック肉を四つに切り分ける。 「それに、仮に山代の亡霊が居ても五人目と八人目、十人目。三度あった出来損ないの切り口。あれは違うだろう。あの意味は何だ」  ブロック肉を更に切り分ける。 「理想の対象ではなかったから。それだけか。肉を切るのに必要なものは何だ」  ブロック肉をもう一度切り分ける。ストンと刃が落ちて、静かにまな板を叩いた。 「得物だ。得物が違う。他の切り口は全て同じ刃物で切断されているんだ」  もう一度、肉に刃を通す。切り分けた肉の断面を確かめる。不格好な断面だった。 「六、七、九番目の断面は綺麗なものだった。なら、得物は犯人の手にあるのか」  手にある包丁を見る。値が張ったが、急に安物のように思えてくる。 「どちらにせよ、事件は起きている。犯人は捕らえなければ。でも、どうやって見つける。次の標的を先に見つけられれば……」  乱雑にまだ塊としては大きさのある肉を刃で叩いた。 「いや、見つけられる、か。俺なら」  気づきがあった。その事実に意図せず笑いが漏れた。 「そうだ。どうして思い至らなかったのか」  包丁を放り出して、天井を仰ぐ。 「俺は犯人に追いつく。いや、俺だから追い抜ける」  俺は静かに気づけた事実に歓喜した。  部屋には切り捨てたままのブロック肉が散らばっていた。
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