シンデレラじゃない私は今日もすれ違う

1/1
前へ
/1ページ
次へ
新しい靴を買った。箱から出して、早速玄関に並べてみると履いてみたくなった。 用事なんてないけど外に出た。 昼はあたたかく、コートを着ていると少ししっとりしてくる気温になって来ていて、過ごしやすい。 行き先がないままに、歩いているのに、何かを探すように周りをキョロキョロしていることに気がついた。 押しボタン式の信号を待つ。 昨日もここで貴方と待ち合わせをして、ここで分かれた。 出かけてから15分ほどが経ち、そろそろ引き返したい。 慣れない靴で、靴擦れなんて起こしたら厄介だ。 名残惜しい気持ちが、ちょうど青になった信号を言い訳に向こう側へ渡る。 これは仕方ない、渡った信号を引き返しては面白くないし、帰りは違う道で帰ろう。  誰に対してかわからない、言い訳をしつつ、足取りは軽い。  ふと思い出した、そういや昔聞いたことがある。  遠回りしたけど、やっと知っている道に出た。 それが歌だったか、誰かの言葉だったか。 そんなことを考えていると前から、昨日も会った彼に出会った。 貴方に会えて嬉しいと伝えられない代わりに 「こんにちは!」 少し不自然に大きな声で挨拶をした。 そんな私には気づかない貴方は、少し間延びした声で挨拶を返す。  出来るだけいつも通りにって務めたけど、上手くできたかな。 心臓の音が騒がしくて、それどころではない。 でも、マスクをしていて助かった。 こんな恥ずかしい顔は、見せられない。  靴は私を素敵な王子様の元へ導いた。 のに、意気地なしな私は通り過ぎる。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加