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新しい靴を買った。箱から出して、早速玄関に並べてみると履いてみたくなった。
用事なんてないけど外に出た。
昼はあたたかく、コートを着ていると少ししっとりしてくる気温になって来ていて、過ごしやすい。
行き先がないままに、歩いているのに、何かを探すように周りをキョロキョロしていることに気がついた。
押しボタン式の信号を待つ。
昨日もここで貴方と待ち合わせをして、ここで分かれた。
出かけてから15分ほどが経ち、そろそろ引き返したい。
慣れない靴で、靴擦れなんて起こしたら厄介だ。
名残惜しい気持ちが、ちょうど青になった信号を言い訳に向こう側へ渡る。
これは仕方ない、渡った信号を引き返しては面白くないし、帰りは違う道で帰ろう。
誰に対してかわからない、言い訳をしつつ、足取りは軽い。
ふと思い出した、そういや昔聞いたことがある。
遠回りしたけど、やっと知っている道に出た。
それが歌だったか、誰かの言葉だったか。
そんなことを考えていると前から、昨日も会った彼に出会った。
貴方に会えて嬉しいと伝えられない代わりに
「こんにちは!」
少し不自然に大きな声で挨拶をした。
そんな私には気づかない貴方は、少し間延びした声で挨拶を返す。
出来るだけいつも通りにって務めたけど、上手くできたかな。
心臓の音が騒がしくて、それどころではない。
でも、マスクをしていて助かった。
こんな恥ずかしい顔は、見せられない。
靴は私を素敵な王子様の元へ導いた。
のに、意気地なしな私は通り過ぎる。
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