27人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
「まさか、こんな小さな山で遭難するとは……」
秋も深まった夕暮れ。東北の標高千メートルも無い、とある小さな山の中。
俺はこの街の市役所の福祉課に勤めている。今日は久しぶりにまとまった休みが取れたので、一人で紅葉狩りに来ていた。
かつては姥捨山などと言われ、口減らしのために老人や子供が捨てられたという話があるこの山も、ハイキングロードが整備された小さな観光地になっていた。
しかし好事魔多しとでも言うのだろうか、山頂からの美しい風景を堪能し、下山する途中に白い霧のようなものに包まれたかと思うと、いつの間にかはぐれてしまっていた。
数時間さまよい歩いたのだが、不幸なことにスマホの電波は届かなかった。助けを呼ぶことも出来ず、とうとう歩けなくなり、人一人ぐらいは座れそうな石を見つけ、ふらふらと腰掛けた。
夕暮れを迎えた山の中、辺りは不気味なぐらいに静まり返り、鳥の声さえ聞こえない。
手持ちの食料もキャラメル一箱と、あとは小さなアーミーナイフしか無い。
どうしたものか……、そう思った時だ。自分が歩いてきた方向とは反対の方角に、人間が付けたような足跡が見えた。見たところ、あまり時間が経っていなさそうである。
「やった! この近くに避難小屋か何かがあるはずだ!」
俺は足跡をたどって坂道を降りていった。この道をたどって行けばきっとどこかにたどり着くはずだ。救いを求め、疲れも忘れて必死に歩いた。
どのくらい歩いたか、家の影が見えた。あれは避難小屋か何かか? 俺はさらに歩みを早めていた。
最初のコメントを投稿しよう!