25人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんで……、義足なんですか?」
絞り出した声は震え掠れていた。
「二年前でしたっけ? 三丁目のとこでデッカイ事故があったんですよ。右足一本で済んで良かった、死んでもおかしくなかったって言われたって」
周囲のざわめきが遠くに聞こえる気がした。
『三丁目のとこでデッカイ事故』
『急に飛び出して来たんだって』
『若い男の子』
『何で左足だけ?』
『まさか二年ぶりに覗き魔が?』
『右足義足なんですよ』
『右足一本で済んで良かった』
頭の中でグルグルと浮かんでは繋がる言葉。
パズルのピースのような、それを合わせたら浮かんできた、彼の笑顔。
「あ、の、私またあらためて、」
気付かれる前に、彼に見つかる前に。
ゆっくり静かに後退る私の背に誰かがぶつかった。
「すみませんっ、」
慌てて振り向いた先。
「大丈夫ですか?」
微笑んで右手に杖を持ち左足だけで立っていた彼は、
「ちゃんと見守ってないと危なっかしいですね、加藤さんは」
と、愛おしそうに目を細めた。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!