逃げる先にはフェチな君

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「あ、取れました」 「ありがとう」 そのまま振り返ってお礼を言ったせいで、感謝して微笑んでると思われたらしい。 「久世さんみたいに優しそうな方と一緒で安心しました。ちょっと緊張してたので」 そのストレートな言葉に面食らってしまう。 実はこの職場の誰からも、優しそうなんて言われたことがない。 むしろ冷めてるとか、笑えばいいのにとか、影で言われてるのを聞いてしまったことさえある。 純粋培養か、苦労知らずか… 随分と素直で真っ直ぐそうな若者が来たものだと苦笑する。 「まぁ…そのうち解るよ。色々」 いずれ彼にも俺の噂話は耳に入るだろう。 ここのアルバイトのお嬢さん達は揃いも揃って噂好きだ。 首を傾げて考える様も無邪気だな。 あぁ心底自分は嫌な奴かもしれない。 この罪の無い、人畜無害そうな、糸くずまで気にしてくれた優しい青年を。 早くも苦手だと感じていた。
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