Gears March

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 上空都市が遠ざかっていく。リンクはその右腕を上空都市に向けて突き出したが、その腕が掴める物は何もなかった。ただ、音もたてずにリンクは真っ暗な地上に落下していった。 なぜ、こうなったのかリンクには分からない。  2230年、人類の住処はもはや地上ではなくなっていた。人口が増え過ぎた人類は地上に全員のためのスペースを確保できなくなったのである。そこで、人類は地球をすっぽりと覆うように建設された上空都市に移り住んだ。上空都市を何層にも重ねる事で、無限にスペースが確保できるからである。  その上空都市での人類の生活は優雅で自由そのものだった。もちろん、労働をする事もない。人類のための労働は全て人工知能搭載の様々な用途のために作られたロボットが引き受けていた。家事や子育てから、治安維持や政治までがロボットの仕事となっていた。  そして、地上は放棄された。今、地上にあるものは朽ち果てた前時代の遺物と上空都市から廃棄されたゴミばかりである。人類以外の生物は全て害虫や害獣としてとうの昔に駆除されていた。それでも、人類が食料に困る事はなかった。なぜなら、人類は100年以上前に人工的に肉や野菜を生成する方法を発明していたからである。  したがって、上空都市に遮られ太陽の光も当たらない暗く冷たい地上で動くものなど何もなかった。ただ一つ、上空都市からされ廃棄されたロボットを除いて。  ガシャンと大きな金属音を立てて、リンクの体は地上に叩きつけられた。地上の暗い静寂の中にその音が反響していった。リンクはゆっくりと立ち上がった。そこはコンクリートでできた高いビルがいくつも聳え立つ、前時代の都会だった。当然、現在ここに住んでいる人間など一人もいない。  リンクはその街を少し歩いた。200年前まで人類で栄えていたであろうその場所にその頃の面影を見る事はできなかった。複雑に入り組んだ路地を数機のロボットが徘徊していた。だが、人類のいない地上に彼らの仕事は何もない。少し動いて止まると、また動く。それを永遠と意味もなく繰り返すのだった。
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