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淡い日差しが雲間から降り注ぐいつもの朝。
庭に出ても、あの足跡は無かった。
やっぱり、ただの夢だったんだ。一生懸命に手入れをしたからか、そんな夢まで見るなんて。少し自分に呆れたような笑いが出てしまう。
――けど。
本当に不思議な夢だった。
そして、本当に綺麗な世界だった。
綺麗な星空。心地よい風。芳しい香り。
そして、綺麗な赤髪の美少女。
夢のような――実際に夢だったが――その光景を思い返しながら、ふと彼女の言葉が脳裏に甦る。
――こちらこそ、一生懸命お手入れしてくれて、ありがと。
あれって、もしかして……?
俺は半信半疑で、心を少しどきどきさせながら、軽く乾いた土に水を注ぐ。
おそるおそるうかがうように、綺麗に咲く薔薇を見ながら、何か言おうと思って言葉を探した。
「……おはよう」
最初に出たのは、その言葉だった。
「あの……水の量とか、大丈夫? 具合が悪いところはない?」
自分でもよく分からなかった。
でも、もう一度語りかけてみようと思った。
どっちにしろ、誰も知らないんだからいいだろう。
ただ、これが本当なのかどうかを確認するくらいは。
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