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現実と夢を通して交わしあうバラとの会話。
どうやら俺はその夢の中ではバラと会話することはできないようだった。朝に水をやるときにはバラは話せないからだろうか。
まるで手紙やメールのやり取りのような会話だった。どちらかが話しているときは、どちらかは聞いているだけ。
でも、たとえそんな限られた中だったとしても、その時間が徐々にお互いにとって楽しい時間になり、大切なものになっていくような気がした。
夢の中で俺は表情や仕草で返事をすることはできるし、彼女は現実で話せない分、いろんな話を楽しそうにしてくれる。
綺麗な星空に囲まれた世界で刻まれるその時間は、俺たちが次第に仲を深めるには十分すぎるものだった。
夢の中の彼女は本当に無垢で、可愛くて、そして綺麗だった。
もしかすると、薔薇の妖精なのかな。いったい何の童話なんだよ。
--それに、薔薇の世話するってどこぞの王子さまみたいで、なんかいいじゃん。
ふと志摩の言葉が思い出されて、俺は笑った。
志摩にこのことを話したら、しばらく王子様っていじられるんだろうな。いや、もしかするとしばらくどころか、ずっとそう呼んでくるかもしれない。
あの童話に出てくる薔薇は確か少し冷たい性格で、よく王子様と言い合いをしてたんだっけ。それに比べるとこのバラは……
澄んだ瞳で星空を眺める、赤髪の少女の横顔を見つめる。
やわらかく吹く風にその長い髪を優しくなびかせながら、彼女は星たちの輝きに見入っていた。花の姿のときも彼女はこうして風に吹かれながら、よく朝から夜までの移り変わる空の景色を見つめているようだった。
「夜は暗いし、ちょっと長く感じる日もあるんだけど、こうやって星空を見てると寂しくないんだよ」
それぞれの星をしっかりと確認するように目を移らせながら彼女は言う。
「星って夜空に咲くお花みたいに思ってるんだ。星があるだけで空がもっと綺麗に見えるでしょ? 丘が広がっているだけよりも、そこにいっぱいお花があったらもっと綺麗に見えるから、なんか似てるなって思うんだ。だから寂しくないんだよ」
彼女は優しい微笑みを口元に咲かせて、それにね、と言いながら俺に視線を移した。
「毎朝あなたが私に、おはよう。って言ってくれるの、すごく楽しみにしてるんだよ」
思わず鼓動が大きく弾んだ。
彼女の瞳には、さっきまで見つめていた星たちの輝きが鮮明に残っているような気がして、またその自然な仕草があまりにも美しすぎて、またその言葉があまりにも嬉しすぎて。
その言葉で心の奥深くまで幸せが満ちるのを感じて、今の自分にとってこの時間が、他の何よりもかけがえのないものになっていることを確信した。
何とも信じがたい不思議な感覚だったが、俺はその毎日が楽しくて仕方がなかったんだ。
こんな毎日ができる限りでも長く続けばいいと、ただそう思っていた。
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