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気が付けば五月、六月はあっという間だった。
「いっぱいお話ししてくれてありがとうね」
その日だけ、バラは少し寂しそうな声をしていた。
「あなたとのお話、すごく楽しかった。けど、今はそろそろお別れしないと」
--え?
何も言えない俺は、ただ顔をしかめて驚きを表すことしかできない。
「でも、できればまたお話ししたいな。できるとしたら、まただいぶ先になっちゃうけど……もしあなたが頑張ってくれたら、ちゃんとまた会えるから」
嬉しさと切なさが混ざったような、複雑な微笑みだった。
「その時まで待ってるね」
その顔のまま、彼女が優しく俺の頬に触れる。
ふわっと甘い――だけど、どこか切ない。
そんな香りがした。
触れた手のひらのかすかな温かさを感じながら、その中に確かに眠る、寂しさという冷気。
何とも言い表すことのできないその温度に俺は戸惑っていた。
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