また、君が咲くなら

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 長い梅雨や雨明けの乾期。  水やりの頻度や病気の予防など、気にかけるべきことはどんどんと増えていった。  志摩にきいたところ、俺が買った薔薇は一季咲きと呼ばれる分類で、基本は年に一度しか開花しない。もちろんそれまで手入れを続けないといけないが、俺はそれを負担に感じることはなかった。  どんな作業だって、またあの綺麗な花が。あの綺麗な笑顔が咲くと思えば、何も苦にはならなかった。  雨風から守り、暑さや渇きを乗り越え、また寒さに打ち勝って咲き誇る彼女を見られるまで、自分も一緒に頑張ろうと思った。  こうして、朝の薔薇への声かけや様子の確認は、俺の日常の一部と化していった。 「なんか、全然具体的にどうとかは分かんないけど、変わったな」  ある日、大学のカフェテラスで前に座る志摩にそう言われた。 「だいぶハマってるじゃん。いつも始めてもすぐ飽きてやめるのに」 「そうだよな。俺自身もびっくりしてるよ」  しかしこれが続いているのには、確実な理由がある。  薔薇の手入れをしているとき、常に俺の脳裏にはあの優しい笑顔があった。あの出来事は誰にも話していない。言ったところで何を言われるか分からないし、実際本当に不思議な話でもあるのだから。 「なんか、前に志摩さ、夢が現実と非現実のどうとかって話してたじゃん?」  志摩がアイスカフェラテが流れるストローを加えたまま、目だけで返事をしてきた。そしてその目が、あからさまにキラキラとした輝きを帯びてくるのを見て、俺はこの話を出したことを少し後悔してきた。 「え、したした! どうした急に!」  予想通りのうなぎ登りな機嫌と共に、勢いよく身を乗り出してくる志摩。 「いや、別に。ちょっと気になっただけ」 「なんだよ、照れるなって。これを機にいろいろ他のものにも興味出てきたんだよな? いや~嬉しいよ、お前の成長を目の当たりにできてさ」  盛り上がる志摩をそっちのけに、俺はバイトのスケジュールを確認しようとスマホのカレンダーを開いた。  季節は秋、十月の終わりに差し掛かった頃。もう少しすれば、また寒い冬の季節が来る。
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