また、君が咲くなら

16/20
前へ
/20ページ
次へ
 そんな朝、目を覚ました俺はいつものように庭に出た。鉢に植えてある薔薇のもとへ、朧気な思考のまま歩みを寄せる。  すると。  鉢から続く足跡を見つけた。  ――これって……  弾かれたように顔を上げる。  頭上に広がるのは、満天の星空だった。  間違いない。ここ数か月間見ることのなかった、あの星たちだ。  高鳴る鼓動を感じながら視線を落とす。  久しぶりに見た足跡は確かに彼女のものだった。  でも、次の春はまだ先だ。  それなのに、この夢を見るということは……  振り返った先。  何度見ても飽きることのない、輝かしい夜空。  そして、それを背景にして立っている、バラの美少女。  彼女は俺を見つけると、一直線に手を伸ばしてこちらに駆け寄ってくる。 「やったぁ! また会えた……!」  どんな星の輝きにも負けない、その煌びやかな笑顔と温かな抱擁は、ここ数か月間頑張ってきた俺への一番の報いだった。 「ほんとにありがとう……! 君のおかげで私、もっと綺麗になれたし、また早く君に会えたんだよ」  嬉しそうに涙を浮かべて、彼女は微笑む。  そっか。また咲いてくれたんだ。  以前に薔薇の育て方を調べていたとき、俺は一つ気になる薔薇の咲き方を見つけた。それが返り咲きだ。しっかりと手入れをしていれば、次の開花までに薔薇は再び咲くことができる。可能性は絶対とまではいかないが、俺はそのためにできる限りの努力をした。  その結果、また彼女の笑顔を咲かせることができたんだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加