また、君が咲くなら

18/20
前へ
/20ページ
次へ
 確かにここ数か月、俺は以前まで全く縁のなかった、薔薇の世話を日課にしてきた。  それは、もう一度元気に咲いてほしいから。  もう一度、綺麗な薔薇が見たいから。  もう一度、彼女に会いたいから。  それが俺の原動力だった。  何も負担なんて感じていない。むしろ、こんなに楽しいことが、一生懸命になれることがあるなんて、とさえ俺は思っていた。  それに、これを始めてからだろう。俺は、少し変わったとか、どこか活き活きしているとか、そう言われるようにさえなった。  誰だって、何か打ち込めるものがあるとか、この先に楽しみがあるとか、たったそれだけで、少しでも明るくなれる。  単純なことだけど、本当にそうなんだと思った。  窓を開けて、庭に出る。  鉢の元まで歩みを進めて立ち止まった。  上を見上げる。  広がっているのは、満天の星空――――  ではなく、白い雲が流れる薄青い朝の空。  下を見ても、そこに足跡はない。  だけど、彼女はきっとここにいる。  ――毎朝あなたが私に、おはよう。って言ってくれるの、すごく楽しみにしてるんだよ。  いつか前に言われたあの言葉を思い出した。  俺だって。  毎朝ずっと、そう言えるのが楽しみだったんだ。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加