また、君が咲くなら

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 何を言っても今は返事は来ない。  静寂が優しく俺たちを見守るだけだった。  その時。俺はふとあることを思い出した。  薔薇を買ってきたあの日。  俺はあの日から薔薇のことをたくさん調べた。  それが役に立つ時が今、来たかもしれない。  俺はおもむろに、咲いている薔薇をいくつか摘み取る。  やがて、茎に残ったのはたった一輪。  正面に咲くその一輪に優しく触れる。  そっと、軽くその花びらに口づけをした。 「返事は、夢の中で待ってる」  そう言い残して、その場を立ち去った。  朝日が差す植木鉢に咲く、綺麗な一輪の薔薇。  その薔薇が――彼女が見つめる目の前に置いてきた、小さなかご。  そこには――――  摘み取った薔薇の花が、三本だけ残されている。
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