また、君が咲くなら

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「で、育てる花はどれにすんの?」  うーん、と唸りながら店内を見回す。  当たり前だが、選択肢はごまんとある。聞き馴染みのある花から全く知らない花まで一通り見回した後に、俺は一つの苗木を手に取っていた。  本当に、何となしに、だった。 「ああ、薔薇かぁ。薔薇はちょっと難しいイメージあるぞ。最初はまだ簡単なほうがいいと思うけど」 「……いや、分かんないけど。なんとなくいいなぁって」  俺が手に持つ薔薇の苗木を見ながら、志摩は咲きかたの種類や、手入れの難しさなどを調べてくれていた。 「まあ、自分で決めるのが一番だしな。それに、薔薇の世話するってどこぞの王子さまみたいで、なんかいいじゃん」  こいつはまたそんなことを言い出す。  文芸サークルにも所属するこの男に、とある作品のシーンが好きなんだと熱く語られたことをちらっと思い出した。  小さな王子さまが、大切に世話をしていた一本の薔薇と別れ、地球に降り立つ。そして、地球に咲く無数の薔薇たちを見て、以前まで一緒にいた薔薇が、自分の中で唯一無二の存在であることを知る。とかなんとか。  キツネが良いこと言ってるんだよなぁ、とか、俺も育てているペットや花と会話したいなぁ、とか、勝手に盛り上がっている志摩を尻目に、俺はレポートを書いていた。  こいつはとことんタイミングが悪い。その話の内容を少し覚えている俺もどうかとは思うが。
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