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「薔薇をお考えなんですか?」
そんな話をしていると、女性店員に声をかけられた。
いかにも花屋のお姉さんという肩書きが板につく、優しい雰囲気の人だった。
「あ、はい。そうなんですけど……」
素敵ですね、と笑顔で返してくれる店員に、少し照れ気味に答えてしまう。
なんて美人なんだ、と志摩が耳元で感動しているのを横に流しながら、俺は少し不安に思っていたことを口に出す。
「花の手入れとか初めてなんですけど、大丈夫ですかね……?」
そうきくと、店員はニッコリと笑って頷いた。
「しっかりお花を大事にする気持ちがあれば大丈夫です。初めて育てるお花に選ばれるんですからね。きっと薔薇も喜ぶと思いますよ」
花屋の店員にそう言われると、また少し意欲が湧いてくるような気がした。
「それに、初めて選ぶのが薔薇って、素敵だと思いますよ。誰かに贈るんですか?」
急にそう訊かれて、少し戸惑った。
薔薇を誰かに贈る……?
「いや、こいつバイトばっかしてるから、贈る相手いないと思いますよ」
俺がどういうことかと考えているうちに、志摩が横から茶化すようにそう答える。
「薔薇を贈るって、いいことなんですか?」
何も分からないまま訊くと、店員さんは笑顔で、もちろん、と答える。
「もらうととても嬉しいでしょうね。それに、自分で育てたものだとなおさら」
チャンスだぞ、薔薇が咲いたら店員さんにあげろ、とまたそんなことを言っている志摩を無視しながら、俺は他に必要なものをきいた。
やがて、会計を終えて店を出るとき。
「ちなみに薔薇は、贈るときの本数で花言葉も変わるんですよ。よかったら、また調べてみてくださいね」
出口で商品を渡しながら、店員のお姉さんが笑顔でそう言った。
「笑顔がいいわ~。ほんと、お花屋さんって感じ」
「うるせえよお前さっきから。彼女持ちのくせに」
頑張ってくださいね、という見送りに頭を下げながら、俺たちは花屋を後にした。
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