また、君が咲くなら

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 すると、その日の夜。  こんな夢を見た。  いつものように朝起きて、庭に出る。  水をやろうと思って鉢に近づくと、そこに咲いていたはずの薔薇がない。  ――あれ?  うつろな思考から覚め、焦って周りを見回す。  すると、先ほどは気が付かなかったが、何やら植木鉢から家の方に向かって足跡が続いているのだ。  おそるおそるその跡をたどって振り返る。  次の瞬間、俺は目をみはった。  さっきまであったはずの家が、そこにはなくて。  ハッと息をのむほどに見る者の心を打つ、満開の星空が眼前に広がっていた。  輝く星たちを仰ぎ見る俺の身体を、優しく撫でる心地よい涼風。  その風に踊るように身を任せて漂ってくる、かすかな甘い香り。  俺は瞬時に、この世界のすべてに魅了されていた。  そして、俺の驚きはこれで終わらない。  そんな不思議な星の空間と化した、自分の家の庭に。  見たことのない女の子がいたのだ。  ほんのり赤みがかった長い髪と、澄んだ茶色の瞳。まるで、絵本の世界からそのまま出てきたかのような。御伽の話のヒロインかのような。  可愛くて、綺麗で、無垢な顔立ちをしたその美少女は、優しい光を浴びせる星たちを背景にしながら、綺麗な髪を穏やかになびかせてこちらを見ていた。  鼓動が大きく鳴るのを感じる。  何だろう。  見たことがないのに、まるで初めて会ったような気がしない。とても不思議な感覚だった。  息をすることさえ忘れていたのかもしれない。何も声に出せない俺に近づいてきて、彼女は優しい微笑みを咲かせる。  そして、とても心地よく柔らかい、繊細な音を奏でるような声で、こう言った。 「こちらこそ、一生懸命お手入れしてくれて、ありがと」  そこで、目が覚めた。
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