また、君が咲くなら

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また、君が咲くなら

 かすかな寒風に揺れる外の草葉を見ながら、悴む手で窓を開けた。  縁側に腰かけ、先ほどヒーターで温めておいた靴下を装備した、万全の状態の足先でスリッパを探す。  この寒気の中で、外に出るのは億劫だな。そう思いながら、縁側の際に置いてあるじょうろを手に取り、白い息をわざとらしく漂わせながら歩を進めた。 「蛇口、冷た……」  寒いのは昔からかなり苦手だ。極寒の中、外にさらされている鉄の塊の温度には、いつだって慣れない。  じょうろにある程度の水が入ると、そのまま庭のいつもの場所へ向かった。 「おはよう」  見下ろす先には、一つの植木鉢。 「今日も寒いな。講義サボりたいよ」  そう言いながら、じょうろを傾ける。 「でも、単位ヤバイし。頑張って行く」  鉢の底から水が溢れだすくらいまでじょうろを傾け続ける。  そう。これはただの水やりだ。  次の春になると、この花は次の開花の時期を迎える。  いい歳した男が、花に話しかけながら水をやる?  何も知らずにこんなことをしていると知ったら、俺もきっと同じような反応をしていただろう。  特に園芸などに何も興味のなかった俺がこんなことをするようになったのは、とある不思議な出来事が起こってからの話だ。  どこまでも美しい星々の煌めき。  優しさに満ち溢れた夜風の音色。  胸いっぱいに広がる芳しい花の香り。  あの、不思議で愛おしい世界の記憶が。  いつまでも五感に焼き付いている。
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