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「えぇ、それはもちろん承知しています。いやぁ、僕も一目見てみたくて、その辺りを一通りまわってみたんですけどね。そんなに都合よく見つかったら先生も苦労されませんよね」
「君はこの辺の人間かね?」
「いえ、先生と同じ東京の出身です。全国紙の中央新聞にせっかく採用されたのに、こんな地方が初任地だなんて思ってなかったんですけどね。
ここの住民って余所者に冷たいですし……だからここだけの話、ちゃっちゃと特ダネ打って都心部に戻りたいんです。先生もそうでしょう?」
「私は……」
職歴の短いわりに淀みなく話す記者とは逆に、弓永は言葉に詰まった。
自分は生まれ育った都会に戻りたいのだろうか。たしかに、ここに着任するまでは先の見えない田舎暮らしに少なからず不安をおぼえていた。
けれども、遊び惚けた学生の尻拭いもなければ、くだらない権力争いに巻き込まれることもない。案外そう悪くもないのではないかと弓永は考えはじめていた。
「ともかく、これからよろしくお願いいたします。他社は一角獣なんて都市伝説だとか高を括って、マークしてないでしょう? なにかわかったら、うちで一番に書かせてくださいよ」
学生の在籍していない研究室のトップなど偏屈にちがいないと見当をつけていたものが、思いのほか人当たりの良い弓永に気を良くしたのだろうか。
一角獣調査の代表者をネタ元として味方につけたことに満足して、五十嵐は軽い足取りで帰って行った。
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