一角獣とコーヒー

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 一角獣の行方を探索するうえで必要な環境のすべてが整っていると言ってよかった。  一方で肝心の手がかりは乏しく、裏山のいまでは珍しくなった原生林のエリアにまで弓永は手を広げた。  しかし、シカやイノシシの勢力図に精通するばかりで、一角獣の影すら掴むことができない。  弓永が空振りを重ねる間も、住民の間からは一角獣を見たという目撃証言が相次いだ。街じゅうをこれだけ探しても見つからないものが、方々で目撃されている。  役所を通じて入ってくる情報とは裏腹に収穫のない弓永に対し、赴任当初は愛想の良かった、県庁環境農林部の担当者は素っ気なくなっていった。  それでも強く成果を求められないのは、気ままに出没する一角獣ではあるものの、田畑を荒らす(たぐ)いの被害が出ていないからだった。  一角獣に対する住民の声は、苦情ではなく純粋な好奇心で占められていたのだ。  それとは対照的に外部からは、名前を聞いたこともない教会の一派から脅迫まがいの不穏な封書が送られてくるようになった。 『一角獣、すなわち神である。即座に追いまわすのを()めるべく要求する。神を捕らえるなど、人間の分際で傲慢極まりないことである』  有無を言わせぬ文面を前に、弓永は溜め息を()いた。  一角獣の生態について、まだなにひとつ発表していないというのに、気付けば自分が矢面に立たされている。
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