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アヤナミのいない日常が、いつしか僕の中で当たり前になっていた。
当初こそ至る場所に彼女の幻影を見ていたのだが、そんなこともついになくなってしまった。
僕は十八歳の誕生日を迎えていて、高校三年生になっていて、受験生という立場にもかかわらず友人連中と共にロックバンドを結成していた。
ちなみに、僕のパートはギター。ステージネームはレッド。街の小さなライブハウスにてメタリックレッドのストラトキャスターをギャンギャンと掻き鳴らす日々は、それまでの悶々たる日常とは比べものにならないほどの新鮮な刺激に満ち溢れていた。
「なあ、ところでよー」
スタジオ練習後の、自宅に続く帰り道。
「オメー、明日暇か?」
ネイティブな地方訛りを用い僕にそんな言葉を投げかけてきたのは、定時制高校に通う三年生で数ヶ月前に知り合ったばかりのドラマー、吉田聡その人であった。
「先輩がギターやってるバンドのライブに誘われたんだけど、観にいかね?」
いまだ謎多き金髪ヒゲ男、吉田からのこのような誘いは極めて珍しく、シンプルに嬉しくなってしまった僕は、
「いいよ」
といささか軽い調子で首肯。
すると直後、吉田が鋲だらけのくたびれたウエストポーチからマールボロ・メンソールの箱を取り出しながら、
「結成してまだ半年らしいんだけど、結構評判いいっぽい」
「へえ、楽しみだな」
「しかもメンバー全員、女子大生だってよ。あわよくば打ち上げ参加させてもらおうぜ」
素行不良少年の口から吐かれた大量のスモークが、盆の宵に吸い込まれるようにして溶けてゆく。
年上女性も、悪くない。
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