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左手首に巻きつけたノーブランドのアナログ時計が、午後五時を指し示している。
ライブ当日。今日も今日とて真夏日を記録した県内市街地。最寄り駅構内のコンビニエンスストアで落ち合った僕と吉田は、徒歩圏内に佇むファッションビルの地下一階――行きつけの楽器店へと向かった。
全国展開をするこの総合楽器専門店には有料のレンタルスタジオ・スペースが設けられており、要するにここで小規模ライブイベントが催されるということだった。
顔見知りの中年アルバイターへのあいさつもそこそこに、僕らは店の最奥部へと歩を進める。
……着いた。
入店から十秒と経たずして辿り着いた会場。僕は一呼吸置いたあと、ガラス張りの重厚なドアを力いっぱいに押し開いた。わずか〇・五秒後には鼓膜をつんざくような轟音が、大洪水となって全身を包み込んでいた。
「やってるやってる」
滴る汗とヘアワックスとデオドラントスプレーの匂いが充満する狭小かつほの暗い空間には三、四十人ほどの若者がすし詰め状態にあり、さらにはイベント出演者による生演奏がすでに始まっていた。
「これ、先輩のバンド!」
傍らの吉田が耳元で叫んだ。
視界の先数メートルにはマーシャル製の機材を背景に、眩いばかりのスポットライトを浴びる四人組ガールズバンドの姿があった。
ケレン味のない、透明度の高いヴォーカルが、スタジオの隅々にまで響き渡っている。
同世代と思しき少年少女たちの多くは縦ノリであったり、拳を突き上げたりと、各々の楽しみ方で気迫溢れる演奏に酔いしれているようだった。
もちろん、僕だって例外ではない。腕を組み、終始すかしたポーズこそ取っていたが、内心では彼女たちの奏でるロックンロールにぴょんぴょんと胸を躍らせていたのだ。
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