机の上に宝くじが。なんと当たり!まじか。

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 世界的に大不況。自分の仕事は、馴染みのカフェから依頼を受けたエプロン製作しか残っていなかった。  彼女は子どものころから真面目で、周りの大人たちからは良い子だと褒められていた。もちろん、犯罪に手を出したことは一度もない。仕事も真摯に向き合っている。  しかし、とにかく貧乏だった。次の仕事の依頼がきても、どうにか1着作れるくらいの余り布しかもう残っていない材料がない。この余り布はただのはぎれだ。その現実はどうにもならない。それならばと、納品先の店長の幼い娘さん用に子ども用エプロンをオマケでつけようと考えた。簡単なデザイン案を拵えて既存の子ども用型紙に合わせて最後の布を裁ち切る。でも、今日はもう遅い時間だからここまでにしよう 作業場の電気を消した。  敬虔なクリスチャンの家庭で育った彼女は、いつものようにナイトルーティンであるお祈りをする。そして、いつもと同じようにベッドに入り、ひそやかな眠りに落ちていった。  朝になって、お祈りをはじめとするモーニングルーティンを済ませる。さて昨日の仕事の続きに取り掛かろうと作業場へ向かった。そこには、例の娘さん用にと考えていた1着のエプロンがすでに出来上がっていて、トルソーにかけられているではないか。驚いた彼女からは言葉が出なかった。  手に取ってよくよく観察してみる。それは、とても素晴らしい出来栄えで、デザインも案もそのまま再現されているうえ、縫い目や寸法の狂いもなかった。まるでプロが作ったような仕上がりだった。  納期の日、おまけでつけた娘さんのエプロンにカフェの店長は大満足をして、代金とエプロンのお礼のチップを彼女に渡した。彼女は気がついた。この売り上げとチップで、2着分の服が作れることに。しかも、その場にいたカフェのお客さんが、彼女がつくった子ども用のエプロンを見て気に入り、2着の依頼を受けた。  新規のお客さん、そしてタイミングの良い材料費の入手は、神の思し召しだと思った。気持ちも改めて明日の朝から仕事に手をつけようと、昨日と同じようにデザインを作成し、布だけを裁ち切った。そして、その日は普段よりも長い時間感謝のお祈りをした。  ところが、その仕事は全く手がかからなかった。というのも、彼女が起きたときには既に完成していたからだ。しかも、それはお客さんにとっても申し分のない出来栄えだった。さらに多くの稼ぎを彼女は得て、次には4着分の衣服をつくれる布をあがなえることとなった。そして、そのお客さんからの紹介で新たなお客さんが彼女に仕事の依頼をしていった。前日、一昨日と同じようにデザインを作成、布だけ断ち切って作業台に置いておく。すると、さらに翌朝には仕上がっている4着のエプロンが布の代わりに置かれている。こんな魔法のような出来事が数ヶ月続いた。そして、彼女は貯金ができるほど生活に余裕ができるようになった。    年末も近いある日、彼女はいつものように布の裁断をしたが、今夜は起きていることに決めていた。ルーティンを崩すことに怖さもあったが、自分の身に何が起こっているのか気になっていたのである。  どなたがわたしの仕事を手伝ってくださっているのだろう。作業部屋の灯りをつけたままにして部屋の隅っこに隠れた。さらに古い布を頭から被って自然と部屋に溶け込んでいる。  夜もふけた真夜中。月明かりだけが街を照らしていたころ、覗き見をしていた彼女の視界に飛び込んできたのはなんと四人の小人さんだった。  丸い天窓から縄ばしごをおろして入ってきた彼らは作業台を陣取った。そして、彼女の描いたデザイン案や仕様書をふむふむと読み、全員で何かを話し合ったあと、手を動かし始めた。ちくちくと針を動かしている。小さな指で巧みにに素早く動かしている無駄のない動き。その素晴らしい技術に彼女は目を離せず、ひどくびっくりさせられていた。  ちくちくちく。四人の小人さんたちは手を休める様子はない。出来上がると、トルソーに服をかけた。トルソーが足りない分は四人が「イッセーノーセ」と、声を合図に丁寧に折り畳んでいる。一通り作業を終えると、再び天窓からおろされていた縄ばしごを登り、夜空に消えていった。  あくる朝、彼女は思った。あの小人さんたちが自分を裕福にしてくれたのだから、お礼をしなくては。そうだ、あんなに忙しく動き回っていたのにお洋服はボロボロで、くつもはいてなかった。この真冬の中では寒いに違いない。彼女は、彼らのために特製の服をこしらえることに決めた。4着の丈夫な服と、丈夫なブーツ、それに冬を耐えられる防寒着をつくることにしたのだ。ただ、慣れない作業も含まれていたため、全てを完成させるのに時間を要してしまった。  さて、小人さんたちにプレゼントを贈る予定日。その日は、断ち切った布の代わりに、特製の丈夫な服とブーツ、それにお腹も空いているかもしれないと、小人さんたち用の小さなお菓子を4つの袋に詰めて作業台に並べておいた。精一杯心を尽くした贈り物だった。そして、小人たちがそれをどうするかを見届けたくなった彼女は、以前のように部屋の隅に布を被って隠れていた。  夜も更けていつものように天井の窓から縄ばしごをおろして飛び込んできた4人の小人さんたち。いつものように、さぁ仕事だと意気込んだところ、普段置いてあるはずのものは作業台には見当たらない。見つけたのは布ではなく、彼らの身体にぴったりとあったこぎれいなお召し物。そして防寒着にニットの帽子、そして雪にも負けないブーツだった。  小人さんたちは驚きのあまり立ったまま動けなくなってしまった。その後、お互いに顔を見合わせていた。そして、ひとりが恐る恐る目の前のそれに手を伸ばすと、それが本当に彼らのためへの贈り物だと理解した。  たちまちに彼らは嬉しくなって、次々にと試着をはじめた。そわそわ、どたばた、慣れないことに戸惑いながらも、素敵なお洋服を着てモデルのようにお互いの姿を見せ合いニコニコ笑っていた。  そして4人の小人さんたちは、嬉しさのあまり踊りはじめ、椅子に机にと、部屋中を飛び跳ねた。そして声が聞こえてくる。「うれしい。うれしい。これでもうさむくてこごえることもない」「うれしい。うれしい。おいしそうなおかしだ。ぼくらがてがるにたべられるサイズだ。ひとつのパンを4人でとりあうひつようもない」それを聞いて、彼女までもニコニコしてしまった。嬉しさのあまり歌いたくなったが、そこはどうにか堪えた。小人さんたちに見つかりたくなかったからだ。そして、小人さんたちはいつものように天窓から帰って行った。    翌日から小人さんたちが現れることはなくなった。でも彼女は困らなかった。もとより自分の仕事であるからだ。小人さんたちはあくまでも自分を手伝ってくれていただけ。そして何より、彼女に裕福な暮らしをもたらしてくれた。それだけで彼女は十分に幸せでした。  そして、依頼を受けた仕事を丁寧にこなし、毎朝毎晩お祈りをする日常に戻っていった。  大晦日の朝、作業場へ行くと、机の上に小さな足あとを発見した。あの小人さんたちのためにこしらえたブーツのものだとすぐに分かった。そして、そこには4枚の紙切れが。それは年末恒例となっている高額賞金が目玉の宝くじだった。  そしてその当選番号発表の時間、彼女はテレビを見てたいそう驚いた。4枚とも当たりくじだった。しかも1等から4等までの。    その後、彼女の仕事は完全に軌道に乗り、何を始めても大成功をおさめた。 (了)
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