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「何が何でも吐く気はないんだな?」
すっかりお酒ですわった目で都子さんはあたしを睨む。
「ないです」
「開き直りやがった……」
「都子さんが今まであたしのつまらない話を聞いてくれて、いろいろ心配してくれたのは感謝してます。だから報告はしますけど。でも、これはもう一生誰にも言いたくないってこともあるじゃないですか」
あの時。
伝えたには伝えたけど、泣いてるし鼻すすってるし声掠れてるしで、ちゃんと彼の耳に届いたのかは分からないけど、でもあれから落ち着くまでずっと抱いててくれた。
抱きしめてもらうと、いつものつなぎ姿で立ってる時は細く見えてたけど、意外にというか、やっぱり力仕事してる人だけあってというか、肩幅も胸も広くて男の人だなあなんて思った。
あれは明らかに子供扱いだった気もするけど、でも情けなくても大事な記憶だ。
「いくら文句言われても、これ以上言いません」
あたしが言うと、都子さんはむすっと唇を結んで、黙った。
さすがに怒らせてしまったかと、少し焦ったけど
「……ま、そうだろうね」
静かに都子さんは言った。
「……べらべら人に喋ったり、ネットに流したりする女も居るけど、あんたみたいに小学校から一人の男に片想いしてきたような筋金入りは、そうなんでしょうよ」
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