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「で?何がどうした。隣んちの片想いの兄ちゃんに手作りチョコ渡すんじゃなかったの」
「……そうなんですけどね……」
昼はシフトで交代で食べる。
遅い昼食をとりに近くの昔ながらの喫茶店で都子さんと向き合って、あたしはひとつ息をついてから話し出す。
「……いつも通り、会うには会えたんですよ。……で、朝一番でバレンタインもどうなんだろうって迷ったんですけど、帰りは会えないか、もしまだ工場開けてても仕事中で邪魔になっちゃうから今の方がいいだろうと思って『あの、これ』って差し出したところで、……お父さんの社長が出て来ちゃったんですよ。普段はほとんど彼一人で、他にまだ誰も来てないのに」
「あちゃー……あの駒沢整備の社長か。髭の」
「いや、優しくて好いおじさんなんですけどね。見た目は怖いけど」
うんうん、と都子さんは頷く。
駒沢整備というのは、うちの隣、といっても以前は畑で今は造成中の広い空き地を挟んだ隣にある自動車整備工場のことだ。
そこんちには二人の息子さんが居て、お兄さんは公務員でもう結婚して独立していて、弟の蓮次さん28歳がほか数人の社員さんと一緒に整備士として働いている。
それで、毎朝一番に出勤してシャッターを開けて、仕事前の一杯の缶コーヒーを飲んでるところに大抵通りがかってしまうということだ。
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