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「都子さ……」
「まあ、せいぜいその大事な思い出がぶっ壊れないように、頑張るんだな」
アニメの悪役みたいにイジワルな口調だったけど、あたしには都子さんなりの祝福に聞こえた。
「ありがとうございます」
「あと、お祝いランチおごってやるって言ったけど、面白くなかったからあれ無しね」
「心狭いですねえ」
「初エッチしたらおごってやる」
「いや、いいです。報告したくないし」
「じゃ、今日おごってください、だけでいい」
「……もう、いい加減あたしのことじゃなくて、都子さんが恋愛すればいいじゃないですか」
ビールのジョッキを傾けて、都子さんは宙を睨む。
「それもありか。……よし。じゃあ、あの茶髪の兄ちゃんよりいい男見つけて、彼氏にして、そんであんたに自慢したらすぐ別れる」
「なんですか、それ……」
「そのままの意味」
都子さんは笑うだけでそれ以上言わなかったけど、なんとなくその気持ちは分かる気がした。
――――それから蓮次さんは、予定通り、新しい勤め先の近くに借りたアパートに引っ越して、季節はいつのまにか春になった。
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