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ぐるぐる回るローディングのマークが十秒二十秒続いたあとに、黒い画面を背景に朧げな人らしき輪郭が現れてやがてクリアになると見慣れた夫の顔が現れた。健康な頃の夫である。
「あなた……」
「パパだ!」
娘がモニターに向かって笑顔で手を振った。
「エリカ……」
モニターの向こうから夫が娘の名前を呼んで微笑む。
麻里奈は何を話せばいいのだろうかと困惑した。
こちらの元気な姿を見れば夫は喜ぶどころか、自分が若くして死んでしまったことに改めて苦しめられるのじゃないだろうかと思ったからだ。画面に映る夫の笑顔に言い様のない陰を感じて、やはりアクセスするべきじゃなかったのではないかと麻里奈は早々に後悔した──。
「どうなのそっち」
麻里奈は自分でも馬鹿なことを聞いているような気がしたが、 特に話すことが思いつかず頭に浮かんだことをそのまま口にした。
妻のシンプルな問いに夫は答えた。
「最悪だよ。寂しすぎる。君達に触れたいよ。ごめん……僕は綺麗事なんか言えない。はっきり言うよ──のんきに生きている君が、心底うらやましいんだ!」
「え……」
「どうして僕が死ななきゃいけなかったんだ!」
夫は語気を荒げた。
「あ……」
麻里奈は夫の恐ろしい形相に咄嗟に娘の目を片手で覆い【終了する】をタップした。
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レビュー 恐かったです。
(★☆☆☆☆)
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