冥界オンライン

Case2

　在宅介護の末、母が亡くなった。

　父より母が先になくなるだろうと懸念していた娘はネットの噂で聞いていた「冥界オンライン」への契約を生前の母に勧めていた。

『え、まあ……死んでからもお父さんに会えるの？』

　娘は答えた。

『そうよ。お母さんは心臓が強いからまだまだ死ぬなんて先の話だけど、ある程度元気なうちに加入していた方がいいと思うわ』

　それはひとえに、一人残された場合の父のことを心配していたからである。二人はおしどり夫婦と近所でも評判の仲良し夫婦だったのだ。娘は思う。母が先に亡くなったりしたら父がどんなに悲しむか。想像するだけでも心が痛んだ。

　母は喜んで契約した。

　案の定父は母の死後、周りがオロオロ心配するぐらい憔悴し切った──食事も喉に通らないほどである。
　初七日が過ぎて父の気持ちも少しは落ち着いただろうと思う頃、いよいよ娘が「冥界オンライン」で母に会えることを父に話した。　

　父は話を聞くと大層喜んだ。──そしてその日から、父は日がなタブレットの画面越しに母ととりとめのない話をするようになって、元気を取り戻していった。

　ある日父は、様子を見にやって来た娘にタブレットの操作方法を聞いて来た。