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慌ただしく男の葬儀は終わり、親戚も弔問客も引き上げた。家の中はしんと静かになった。
「母さん、本当に一人で大丈夫?」
長男が母を気遣う。
「ありがとう。でも心配しないで。お父さんとはいつでも会えるもの」
涙をこらえて気丈に振る舞う母に、
「そうか! あれがあるものね」
と次男が言った。
「ええ、だから、もうあなた達はお帰りなさい」
母は息子らを玄関に送った。
「またすぐに来るから」
そう言って長男が母の肩にそっと手を置き、
「寂しかったら、すぐに電話して」
と、次男が母の手をギュッと握った。
二人の息子は母親に温かい言葉を残して、それぞれの家へと帰って行った。
『ありがとう……』
女は夫そっくりの二人の背中を見送りながら、微かに安堵の笑みを浮かべた。
『とうとう一人になっちゃった……』
長年夫と暮らしたわが家にポツンと一人残った女は吐息をひとつ漏らすと、早速パソコンを前にして「冥界オンライン」にアクセスすることにした。サイトにログインする手慣れた女の指先は、迷いなくスクリーンキーボードにIDコードをタップする。
しばしのローディングタイムが終わり、やがてモニターに愛しい男の顔が映った。
「また来てくれたね」
モニター越しに笑顔を見せるのは、遺影とは異なる男だ。
「貴方、わたしやっと一人になったわ。もうコソコソしないで、誰にも気兼ねすることなく貴方とおしゃべりが出来るのよ。嬉しい……」
女が語りかけているのは三年前に死んだ、女の若かりし頃の恋人である。男は余命が判明するとすぐに「冥界オンライン」に加入した。そして自分の死後、「冥界オンライン」で女を指名していることの通知が彼女に届くよう手続きしていたのだった。
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レビュー 昔の恋人に時々会っています笑
(★★★★☆)
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