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「ごめん……俺がいきなり、こんな話をするから……」
生暖かい雨粒が、頬を撫でる。
おかしいな……雨なんて、降ってないのに……。雨が降ってないとしたら、頬を伝っていくこの水は……なんだって言うんだよ。
「……返事、待ってるからさ。それまでは、あげる……お願い」
そう言って、関口はハンカチをくれた。どうして、ハンカチ? これを渡してくれた彼の意図が、全く分からない。
「佐伯さん……また、明日」
「……じゃ、あ……な」
ぎこちない笑みを残して、日が沈んだ道を歩いていく。
俺は、足枷をつけられたように、その場から離れることができない。
もらったハンカチを握りしめて……奥底で溢れてくる雨水を堰き止めようと、必死になる。でも、どうしても止めることができなくて……それでも、彼のハンカチは使いたくなくて……。
声も出せないまま……雨が降り止むのを待っていた。
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