昼の夜

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◇◇◇  淡い寝室の灯りでもわかる程、ベッドの中で眠る蓮の目尻は赤く染まり、うっすらと涙が滲んでいる。グレーのシーツに埋まる普段は雪の様に白い肌は先程までの情事の余韻で薄っすらと赤く染まり、上下に動く胸の呼吸の証にこれが人形や無機物ではなく人だと雅彦に気付かせる。 先生、先生と縋りつかれるのも良いが時には名前を呼ばれたいと若干、無理強いをしてしまった為、頭上に絹のリボンで纏めたままの両手首には雅彦の手形が残ってしまった。 散々弄んだ胸の頂は雅彦の唾液に濡れたままぷっくりと起き上がっていて、生クリームの上に飾られたベリーの様に艶めきをみせている。普段以上に薄い筈の腹も沢山熱を注ぎ込んだ為、僅かながらもふっくら膨らんでいるように感じるのは欲目からだけでは無いかもしれない。 未だに無残にM字に広げられたままの足の付け根、香しい穴は縁を体内の欲望を見せるかの様に強く赤く染め、飲みきれない白濁をとろりとろりと溢し続けている。その上には手首を縛ったリボンと同じもので根本を飾られた蓮の雄が、達せないまま、震えている。 雅彦が優しくそのリボンを解けば、もう意識もないだろうに、蓮の細い腰が細かく揺れ同時にダラダラと水に近い濃さの白濁がだらしなく流れ落ちる。その様に、雅彦は花の蜜に誘われる虫の様に、その甘味に唇を添え、音を立てて啜りつくした。 標本の蝶の様な姿にされたままの、細くはないけれど柔らかい肉のつかない筋張った足は確かに男性の骨格だが、だからこそ、きっと情事の最中は自分の横で力なく揺れる赤いハイヒールがよく似合うだろう。今年こそは持参して、楽しみたい。 すくい取った髪に口付けてから雅彦は立ち上がる。  エアコンは付けられているがベッドの上、シーツさえ纏わせず、事後の様をありありと……いや、そのままヤり跡を見せつける様に放置された蓮は大好きな影山先生がどんな風にいつも自分を置いて行くのかまだ知らない。  誰がどうみても……それこそ、こんな状況にした雅彦でさえ客観的に見れば酷い有様だと思うが、雅彦はあえて、蓮をそのまま放置して、自分の衣服を整えると、蓮は決して行くことの出来ない扉の向こうに向かった。  最初、雅彦は蓮に纏わる『噂』を滑稽だと思っていた。だからこの仕事を引き受けた。 だが、初めて褒美と口封じの為に差し出された蓮を抱いた瞬間、冷たいとか感情が無いだとか人でなしだとか散々言われてきた雅彦でさえもわかった。 『噂』よりも何よりも、一度でも蓮を抱くと、もう手放せなくなる。 蓮を求める男達を上り詰めさせ、狂わせる。 確かに蓮はそういう存在だ。 そして雅彦自身もその愚かな男達の一人だった。  こんな鬼畜な行動をとってしまう位には、一時の繋がりを求め愚かな犬に成り下がる位には、雅彦は蓮の事が狂いそうな程、愛しくて愛しくて仕方がない
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