韜晦

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◇◇◇  とても重くて苦しい思い出はいつまでも雅彦の心を蝕んだ。何とか卒業して資格も得れたが雅彦は自分の生きている意味を見失っていた。 日々の生活も困る程になってこのまま彼方に会いたいと思う日々の中、再びあの教授に声をかけられた。『手を貸してほしい』と。 手伝うつもりも無かったが連れて行かれた先。数年振りに出会った奏はあの研究施設の責任者になっていた。 奏の配下として、再び世話係として呼び出された雅彦の目の前に現れたのはあの日々の彼方の様に嬲られた跡が明らかな一人の少年。そう、青年じゃなくて少年だ。 あの頃の彼方を思い出し、雅彦は泣きながら必死で世話をしてやった。 そして、奏もまた、所長という立場にも関わらず、いやその立場だからなのか、あの日の彼方の様に空っぽで目を覚ました少年に、まるで彼方の人格を刷り込むように世話をしていた。 二人がそろっても決して彼方の話はしなかった。出来なかった。 だが、あの夏の日に、無くした彼方を取り戻す様に二人とも少年を慈しんだ。 そして、そんな少年は一週間後、施設から忽然と消え、また雅彦は多額の報酬と共に真実から遠い場所に放り出された。 この時、雅彦は知らなかった。 この少年が『天女』と呼ばれるモノであり、奏も雅彦も憎んで恨んだモノだとは。 それから更に数年後、あの謎の少年の世話をした時に貰った報酬も無くなり、多額の借金を背負った雅彦は、返済の為と強制的に紹介された仕事で、ビルの上に閉じ込められた、窓越しに広い空に焦がれる蓮と出会った。 憎い『天女』とも知らずに、あの時の少年とも知らずに邂逅した。
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