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seventy four (side 鹿島)
(それにしても良かった)
カチカチとボールペンを親指で鳴らす。
(あんな風に、子供みたいに泣くなんて。いや、まだ子供なんだよ。わかっているのか?)
指の上でボールペンをくるりと回転させ、カチカチ。
(わかってるよ。それでも、好きなんだ。あの笑った顔、可愛すぎるだろ)
カチカチカチカチ。
「鹿島あ、鬱陶しいからそれヤメロ」
大同が横から言う。鹿島は隣に座る大同へと目をやると、また戻して、ボールペンをくるりと回した。
カチカチカチカチ。
「晴れて付き合うことになったんだろ。それなのになんでそんなイライラしてんだよ」
分厚い書類をカバンにごっそりと突っ込みながら、言う。
「イライラなんてしてない」
「じゃあ、あれか? ウキウキか?」
「ふん、まあね」
「まあね、じゃねえ。そわそわすんな」
「ふふん」
「おい、おっさん。キモいぞ」
会議室では小規模の打ち合わせが終わり、今は大同と二人きりだ。大同は呆れながらも、心配顔を寄越してくる。
「なあ、あれ、どうすんだよ?」
「ん? なんだ?」
「忘れたのか、今度の10周年記念パーティー」
「河瀬のとこのか。ああ、参加するぞ」
「そうじゃねえ。あれ、パートナー同伴だっただろ?」
「あ、ああ。そうだったな」
「で? 小梅ちゃん、連れていくのか?」
大同がさも言いにくそうに、唇を片方だけ上げている。
「考えてなかった」
「花奈さんとこは今回は不参加だから、小梅ちゃんを連れてってもいいとは思うが」
「ん、そうだな」
「でも、なにかしら言われるのは目に見えてるぞ」
大同は、「なにかしら」と表現したが、言われる内容は想像できた。
「まあ、なんとかなるだろ。それより、今日はもう終わりか? 飲みに行けるか?」
「俺が今日出した条件を飲んでくれるんなら、お供するけどな」
「バカか、あんな無茶苦茶な要求、飲めるわけないだろ」
「じゃあ、お前とは金輪際、飲まないもんねー」
「もんねー……じゃねえ。ほら、行くぞっ」
胸に去来した少しの不安と翳りを打ち消すように、鹿島はカバンを手に勢いよく会議室を出た。
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