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one hundred and two (side 鹿島)
「ごめんなさい、本当に」
スマホを差し出されて、素直に受け取る。すんなりと受け取れたのは、それまでの経緯もあって、諦めの気持ちに傾いていたからかもしれない。
「ううん、こちらこそ、今までありがとう」
言いたい言葉がたくさんあった。けれど、数ある言葉の中で、一つ二つしか口にできなかった。
「楽しかった」
小梅が泣きはらした顔で笑う。
「鹿島さん、今までありがとうございます」
そのまま立ち上がり、離れていった。
病院の待合で、小梅に返されたスマホの画面がほわっと明るい。
それとは対照的に、鹿島の頭の中は霞がかかっている。
そんな頭で、さっきまでの小梅とのやりとりを、ぼんやりと思い出していた。
✳︎✳︎✳︎
「ごめんなさい」
何度も何度も謝る小梅に、鹿島は焦って言葉を繰り返した。
「違う、君は何も悪くない。俺が、軽率だったんだ。考えなしで、あんなことになってしまって、後悔している。でも、小梅ちゃんが好きなのは本当なんだ。好きなのは、本当に小梅ちゃんだけなんだ。他に誰とも付き合ってない。深水ともそんな関係じゃない」
指輪も出して、その経緯を説明する。
「こんなもの、重いって思うかもしれないけど、」
震える指で、箱を開ける。買った時は、シンプルな指輪だったはずなのに、それは輝きを放っていて、とても美しく見えた。
これを小梅の指にはめることができたら、どんなに嬉しいだろう、と。
「小梅ちゃんが悲しんでいる時に、こんな……でも、こんな時だからこそ、一緒にいたい。側にいたいんだ」
「私は、大丈夫です」
「ち、違うっ」
病院の薄暗い待合いに鹿島の声が響いた。
「俺だ、俺が、俺が……側にいて欲しいんだ」
「……鹿島さん」
「どうしたらいい? 俺は何をしたら、君は俺の側にいてくれるんだ」
「私みたいな嫌な子、鹿島さんにはつり合わないですよ」
「そんなことない。君は本当に心が優しくて純粋で……俺はそういう小梅ちゃんのことが好きになって、」
「ううん、鹿島さんは知らないだけです、私の本性。こんな性格の悪い私じゃ、鹿島さんには、」
「そんなことない、」
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