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one hundred and five (side 小梅)
家に帰ると、玄関の前に男性と女性が立っているのが見えた。
その頃には小雨が降り出していて、彼らは黒い大きな傘を差して立っていた。
黒のスーツ、そして。手には数珠を持っている。
お墓まいりみたいだな、と遠くで思った。
「小梅さんですか? この度はお祖母様のこと、お悔やみを申し上げます」
私は軽くお辞儀をすると、「おばあちゃんのお知り合いですか?」と訊いた。
すると二人は顔を見合わせて、男性がスーツの胸ポケットから名刺入れを出した。
「やすらぎ葬祭と申します」
名刺を受け取ると、家からほど近くにある葬儀会場の名前。私がどうしてと動揺していると、次には女性の方が話し始めた。
「お祖母様のご葬儀について、ご相談をさせていただきたく参りました」
「うちですか? うちは頼んでませんので、何かの間違いかと思います」
二人は怪訝そうな顔を浮かべて、お互いを見やった。
「ちょっと失礼、」
男性が携帯で電話を掛け始める。そして一言二言話すと、「小梅さんですよね、やはり間違いありません。鹿島さんという方から、ご依頼を受けております」
「えっ」
「お祖母様のご葬儀は当方にお任せください。心を込めて、お別れのお手伝いをさせていただきます」
乾いていた涙の跡を伝って、また涙が落ちていった。
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