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zero (side 小梅)
恋というのは、突然やってきて、そして去っていくんだな。
それは私が高校生の時。駅のホームでのことだった。
突然、男の子に呼び止められて好きだと告白されて、え? と思った。相手は見ず知らずの男の子だったからだ。
友達に聞いて後で知ったのだが、同じ学校、同級生、隣のクラスの男子らしい。
(今までに一度も喋ったこともないのに……)
接点はもちろんない。私は、疑問で頭をいっぱいにした。
(ひと言も喋ったこともない人を、そんな簡単に好きになるのだろうか?)
どんな人なのかもわかっていないし、名前すら知ってはいない。どんな人なのか、少し様子を見てみようと、返事を待ってもらった。
けれど、それから間もなく両親が突然、交通事故で死んでしまい、そのことはうやむやになってしまう。
両親の死で、奈落のどん底に落とされた私には、先生たちの慰めの言葉も友達からの憐憫の声も届かない。
ただ告白してきた男の子に、学校の廊下で一度だけ、声を掛けられたのは薄っすらと覚えている。
「元気出してね」
嬉しい? いや、嬉しくはない。そんな軽々しくと、怒ったのかもしれない……ううん、ただただ落胆したのかも。
その時に生まれた感情も、そしてその男の子の顔も、今となっては覚えていない。
腫れ物に触るように接してくる学校から逃げるようにして帰る。すると、家ではおばあちゃんが毎日、にこにこと笑いながら手を広げて迎えてくれた。
「おかえり、はな」
その記憶は、はっきりとある。
家族と呼べる人はもう、おばあちゃん一人だけ。そう思うと、自然と涙がじわっと滲んできてしまう。けれど、学校では泣けないし泣くわけにはいかない。何度、唇を噛みしめたことがあっただろう。
そして、笑う。
そんな私をおばあちゃんはいつも優しく抱きしめてくれた。
「辛いなあって思う時はね、無理して笑わなくていいんだよ。はな、おまえは本当に良い子だねえ」
リウマチで歪んだ両手。その手の温かみ。
曲がった小さな背中に、一生懸命に腕を回して、私はすがっていたかった。
いつまでも。いつまでも。すがっていたかった。
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