seventy seven (side 小梅)

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seventy seven (side 小梅)

目線ほどの位置にある生クリームをよいしょっとすくうと、前に座っている鹿島さんとばちっと目が合った。 照れてしまって慌てて苺パフェに目を戻すと、生クリームに埋まっている真っ赤な苺を横へとずらす。とても高くて手が出ない苺が5個も乗っているなんて、どういうことなんだ。嬉しくて口元がムズムズとしてきた。 「楽しみは後にとっておくんです」 鹿島さんは、なぜか嬉しそうに頷いている。 私が何かひとつ話すと、その度に相好を崩し、うんうんと笑顔で聞いてくれる。 (なんだろう、今日はなんだか機嫌が良いみたい) もちろん私も大好きな苺とパフェと鹿島さんを前にして、夢のような時間を過ごしているのだけれど。 「苺は、日にちが経ってしまって売りものにならないものを少し分けてもらえるんですけど……」 うんうん、と鹿島さんが頷く。 「三つくらい食べて、あとはジャムにするんです」 そうなんだ、ジャムって手作りできるんだねと、鹿島さんがコーヒーカップを持ち上げる。 一緒にパフェを食べようと言ってくれていて、スプーンだって二つもらったのに、鹿島さんは全然口にしようとしない。 鹿島さんはチョコが好きだから、チョコパフェの方が良かったのかもしれないな。 私がどうぞとパフェを勧めると、鹿島さんはスプーンを持って、バニラアイスの部分をすくった。 「ん、美味い」 「苺も食べてくださいね」 「うん、ありがとう」 そう言いながら、生クリームとバニラアイスを交互に食べている。 (こうしていると、少しは恋人同士に見えるのかな……) 慌てて思考をストップ。順番を鹿島さんに譲ってから、バニラアイスをスプーンですくおうとして、はたと手を止めた。 (もしかして苺を……残してくれているのかも) 私が好きだと言ったから。楽しみは後にとっておくタイプですと言ったから。 優しさが染み込んできて、心のどこかはわからないけれど、よしよしと撫でてくれるように。 私に苺を残してくれる鹿島さん。テーブルの上にスマホを決して置かないで、私の話を真剣に聞いてくれる鹿島さん。そして、おなか痛くない? パフェ残していいからね、食べられるんなら食べちゃってもいいけど、ああ、食べちゃうんだね、すごいと笑う鹿島さんが好きだ。 幸福感は貰うばかりで、私は鹿島さんにあげられているだろうか。 なにかをしてあげたい。喜んでもらいたい。 さっき、話していたパーティーの件、オッケーする。 鹿島さんが喜ぶなら、鹿島さんが嬉しいなら。 きっと私は、なんだってする。
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