eighty (side 鹿島)

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eighty (side 鹿島)

「よお、ご両人っ」 大同の声がして、鹿島は少しほっとした。 「こんばんはっ」 小梅がぴょこっと頭を下げる。大同は小梅を見て、おおおおっと歓声を上げた。 「小梅ちゃん、めっちゃ可愛いな」 大同がニヤッと笑って、鹿島の脇腹を肘で突いた。 「こりゃ、見せびらかしたくなるってもんだ」 「大同さん、私、どっかおかしくないですか?」 「えー、全然大丈夫だよー。ってか、良いなあ、鹿島はあ。こんな可愛い子連れちゃってー」 おちゃらけた態度で大同が言うので、小梅の表情も幾分か柔らかくなる。先程から、取引先の重役や取締役、年配の人にしか声を掛けられておらず、小梅をじっくりと紹介する隙も与えてもらえなかった。 花奈の時は、相手から振ってくれたので紹介しやすかったのもあるが、小梅は若過ぎて皆、どう振っていいか迷った末、スルーされるパターンが多いようだ。覚悟はしていたが、あまりに場の空気が悪い。 鹿島は、小梅を、「小梅さんです」としか紹介できていなかった。 花奈の時ももちろん、敢えて恋人だと紹介はしなかったが、大体の人は察してくれた。 「これはお美しい方と……羨ましい限りですな」 会話は必ずと言っていいほど、そこへと落ち着く。 けれど。 「こちらは、小梅さんです」 そう紹介しても、ああ、そうですか、で終わってしまうのだ。 小梅は精一杯のお辞儀をして、鹿島と相手が話終わるのを、ニコニコと笑いながら待っている。 大同が声を掛けてくれて、心底、ほっとした。それは、小梅も同じだろうと思う。 小梅を見ると、息を抜いて、大同と話している。 「でさ、あの右のやつ、食べた?」 「あのオレンジのやつですか? 食べましたよ、すっごく美味しかったです」 「じゃあ、その隣の緑のやつは?」 「あれは、まだ食べていません。美味しかったですか?」 「美味しいよ、すごく。よっし、食べに行こう」 大同が小梅の肩を抱いて、促す。 「おいっ、」 その姿にムカッときて、鹿島は声をあげた。けれど大同は構わず、お前はそこにいろと言い残して、小梅を連れていってしまった。 「くそ、あいつ、勝手なこと」 長テーブルの前で、皿を持つ小梅。大同と楽しそうに話しながら、料理を取り分けている。そこへ、大同の部下の男が割り込んでいって、何か小梅に向かって話し始めた。 (大同もチャラいヤツだが、大同の部下も相当チャラいな) その姿を見てあまりにイライラとした。近くを通りかかった給仕が持つワインを取って、一気にぐびっと飲んだ。 (何を話しているんだろう) 小梅が、笑っている。すると、男も笑った。もちろん、大同もその横で大笑いしている。 (俺はいったい……) くすぶる気持ちをなんとか押さえて、じりじりしていると、「鹿島さん、お久しぶりです」と声が掛かった。
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