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eighty five (side 鹿島)
『つまらなかったね』
『いえ、楽しかったですよ。キャビアなんて、初めて見ました。噂ではよく聞きますけど、本物は初めてで』
可愛いスタンプと一緒に返信が送られてきて、ほっと息をついた。メールを打つ手が、少しだけ揺れる。
『ありがとう。そう言ってもらえると、助かるよ』
『それじゃ、おやすみなさい』
『うん、おやすみ』
ようやく離したスマホをベッドの上に投げる。まだ灯のついている画面を見ると、ほわっと日付が浮かび上がった。
「はああ、まだ土曜日だぞ」
ごろっと上を向く。天井に小梅の顔が浮かぶ。
「あーあ会いたいなあ。土日に会えないってのは、結構きついもんだな」
モリタとメープルの定休日である水曜日以外は、小梅は働き通しだ。鹿島も水曜日をいつも休むわけにはいかない。どうやってか土日に会えたらいいのにと考える。
「明日は日曜日か。ヒマだな」
(そうだ、明日は午後からモリタへ買い物に行こう)
そう決めてしまうと心がすっきりとした気持ちがして、鹿島は布団に潜り込んで、目を瞑った。
少しだけでも、顔を見たい。
少しだけでも、声が聞きたい。
小梅の笑顔。
明るくはしゃぐ声。
(会いたい)
鹿島は、そのうちに襲ってくる眠気とともに、そのまま意識を手放していった。
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