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eighty nine (side 鹿島)
小梅のために何かできないかと考える。
けれど、そう思って行動したことが、返って小梅を苦しめることもある。
鹿島は、小梅に贈って返されたブレスレットとスマホのことを思い出していた。
『私、貧乏だから、手が……手が、震えちゃって。バカみたいに、震えちゃって』
まさかの反応だった。小梅の喜ぶ顔を想像しながら、ブレスレットを選び包んでもらった。スマホも同様に。
「ご家族かどなたかに?」
携帯電話のショップの店員に笑顔で訊かれて、「か、彼女に、」と照れながら答えた。すると店員は、両手を合わせて「あらあ、羨ましいっ。私の彼氏にもこんな甲斐性があったら良いんですけどっ」と言う。
「普通」はそういう反応なのだ。けれど、小梅はそうではない。
ようやく、小梅のことが少しだけわかりかけてきたような気がしている。
何かをしてあげたいと思うが、何も名案は思い浮かばない。
(もどかしいな……)
今までのように金でなんとかすることができない。焦れる心。
落ち込む気持ち。
嫉妬で痛む胸。
けれど。
どんな小さなことでも幸せを感じられる。小梅と話をするだけで、とても安らかな気持ちになる。
鹿島は、小梅に初めて会った時のことを思い出していた。
(花奈への誕生日の花束を、一生懸命に作ってくれて……)
優しくて、しっかりしていて、いつも笑顔で笑っていて、時には失敗してえへへと苦笑いもする。
そして。
(こんなにも相手を思いやる気持ちに溢れている人はいない)
小梅のことを考える。好きだなあと、しみじみと思う。
そうやって何度となく小梅のことを考えるが、結果、全てがそこに繋がっていくのだ。
鹿島は、これが自分の初恋なのではないか、とさえ思った。今までにこんな風に誰かを想い、必死で追いかけたことなど、一度たりとも無かったからだ。
痛みも悲しみも苦しみもあるが、それを凌駕する愛しさが、鹿島を突き動かす。
「君のために出来ることがあれば、何でもしたいのに」
鹿島は今、先走っていってしまう自分の気持ちを必死で抑えていた。
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