成人式

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成人式

『中村さん大丈夫そうだから  着付けと髪はお願いしたわよ』 お母さんからそうラインが届いたのは昨日。 「お母さん大丈夫だって〜  着付けも髪のセットも」 雑誌から顔を上げた天城ちゃんと、鏡越しに目が合う。 「え、その髪のどこセットすんだよ  ちびまるこのくせに」 「は…!」 確かに! 私の髪に薬剤を塗っていたおじさんがクスクス笑った。 ここは天城ちゃん御用達の床屋。 成人式を前に髪の色を 「派手だなおい」 「可愛い〜」 「自分で言うな」 「着物の時はそうだな〜」 おじさんが色付いた私の髪をピンでちょいと留めると 「わ、可愛い〜」 「だから自分で言うな」 ピスタチオカラーのインナーカラーがいい感じに見える。 外側は栗色。 美味しそう過ぎる私の髪。 カランカラン 「あざした〜」 暖かすぎる店内に長い時間いたから、外に出たらひんやりと気持ちいいくらい。 「りんご」ツンツン 天城ちゃんが赤くなった頬をつついた。 「お父ちゃんびっくりしてひっくり返らない?」 「やんちゃ過ぎたかな」 「まぁそれが出来るのは今だけだしな  俺はいいと思うけどさ」 話しながら向かう先は東京駅。 私は夕方の新幹線で久々にご実家へ帰ることになっている。 「スズっころ」 「ん?」 カシャ 「朝霧さんに送ってやろ〜  ヤンキーになりましたよって」 直接報告したくて、天城ちゃんがお休みの今日、デートに誘ったのは私の方だった。 そしたら天城ちゃんがカットに行きたいと言うから、ついでに私も、となった。 天城ちゃんは一言、「よかったな」って言っただけだった。 すごく喜んでくれるかと思ったのに、なぜだか少しだけ寂しそうな顔をした。 天城ちゃんの気持ちも考えず、笑顔全開で報告してしまったことを後悔した。 大好きな光輝がほかの女子にプロポーズしたんだもんね。 だけど謝るのも違う気がして、いつも通りな天城ちゃんに合わせることしかできなかった。 人の気持ちをちゃんと考えないといけないな。 「着物は?」 「着物は麻衣ちゃんのがあるから」 「おべべ着たら写真送れよ」 「オベベってなに?美味しそう」 2泊3日のお荷物を、天城ちゃんは私の手から取る。 「お腹減った〜おやつ行こうよ」 「カフェってたら新幹線遅れる」 ブーーー 「クロワッサン買ってやるから」 「チョコクロ〜」 床屋の近くのおしゃれパン屋でチョコクロワッサンを買ってもらい、タクシーぶっ飛ばして東京駅へ。 「飲み物は?お茶買う?」 「持ってるから大丈夫」 東京駅まで天城ちゃんは送ってくれて いや、東京駅というか、ドアtoドアのお見送りをしてくれた。 なんていい奴なんだろう。
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