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タイムリミット
普段互いに関わりのない、なんの関係も見えない、そんな二人。誰も知らないし、知られたらあっさりと終わる。そんな関係。
この関係に果たして愛はあるのか。
いや、そんなもん、もはや愚問だ。
愛などという曖昧なものほど、人を破壊する。
(生)真面目、がり勉、優等生、眼鏡、根暗、平凡。
そんな言葉を身体中に貼り付けたような印象を抱かせる自分に向けられた、聞き飽きるほどの言葉と、慣れすぎて聞こえなくなった陰口。
劣等感からの嫉妬か、暇なのか、他人を複数で罵らないと生きていけないのか、それとも全てに当てはまるのか。
直接的な被害は、あまりに無反応で無関心だったせいで三日で終わった。三日坊主がそこまで浸透すると学生であることもすぐに飽きていそうだと思った。それだけだった。
被害にあった学校の所有物は無惨な姿になり、後に使われていくはずの未来を失った。こうしてあいつらは生きている間に、あと幾つの未来を断ち切っていくんだろう。無邪気に笑い、罪悪という言葉を抱かずに残酷に切り捨てて。
モノに抱く罪悪なんて、人に抱く罪悪なんて、当事者の脳みそが都合良く変換して隠されているんだろう。
自分もそうであるように。
自分も同じ人間であるように。
切り捨てて求めて手にして満足して、繰り返していく。それがモノでもヒトでも。
だから「愛」なんて言葉は、点在する言葉の中で酷く曖昧なもので。
それを信じて抱くことで、善悪が生まれるように、裏切りも依存も束縛も嫉妬も優しさも厳しさも辛さも幸せも、人間の感情にある全てに繋がる「愛」というひとつの根元を消し去ることはないのだ。
だから。
「ッ、…もっとこっち、こい」
「───うぁッ、やっ」
だから、この関係が「愛」に繋がることは決してない。
二十四時間のうちの二時間を使った、ぶっ通して行われる本能のぶつけ合いには、情なんて殆どないのだから。
「あっ、く…るし、い、」
「詰めすぎて、腹一杯の苦しいだろ…っ」
「ぅん…ッ!」
ベッドの上、シーツを越えて敷き布団まで濡らす汗と粘液が全身にへばりついて、次から次へと溢れては下に染み込んでいく。
籠った空気が息苦しさを増して、それが余計に与えられる快楽を助長する。
深く、深く、確かめるように体重をかけてめり込んでくるその異物に、全身から痺れていって脳みそが麻痺するような錯覚。
「ァ…っ、んんんッ」
「俺が、しつこい方で良かったなァ」
「はっ、はぁ…」
長いようで短い二時間というタイマーは、いつから用意されていたのか俺は知らない。
ひとの体の中を執拗にかき回して絶えず強烈な刺激を発生させている、この人間の中身を俺は知らないのだ。
外見だけを知っているだけで普段の生活も人間関係も、この二時間以外の性格も、なにも知らない。お互いに。
だからこの関係は誰も知らない。
始まりも終わりも誰も知らずに過ぎて、思い出にすらならずに消える。
「あっ、ふ、んんッ」
「イくついでに、飛びそうだな…っ」
「や、あっ、も…ッ、」
頭の中を真っ白に、一部の記憶をぶっ飛ばして、本当にこのまま逝きそうなくらいの衝撃をぶつけられて果てる。
毎週金曜日の夜九時に始まって十一時に終わる関係。
果てて、窓を全開に冷たい空気を吸い込んで、汗と白濁を洗い流して、会話もせずに部屋を出る。そして死んだように眠るんだ。
お互いの会話は、会話にならない言葉のぶつけ合いでセックスしてるときだけ発生し終われば声はない。息を整える間だけの余韻を感じ、お湯と共に流し落とす。
この行為に愛はない。
印象を植え付ける事は容易いと思っている。「自分はこういう人間だ」と他人に主張するほど考えたことはないから、他人の抱いている自分への印象を拭うことも書き換える事もしない。
一般な真面目人間になろうと思ったわけでもなければ、不良になろうと思ったわけでもない。でも人は人を区別する。そうしないと認識出来ないのだろう。
自分もそうであるように。
でも、この時間だけは本能だけを主張させていたい。
これは「愛」にはならない。
そうなった瞬間に、この関係は崩壊する。
それを惜しいと思ってしまえば。
END
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