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タイムリミット2
ほんの少しの好奇心と暇潰しという気持ちから、手を差し出した。なんの反応もしないヤツは、自分自身では気付かないくらい密かにその目を寂しそうに揺らしている事をオレは知っている。
パタン、とドアが閉まる音は、なんの感情も滲ませないくらい普通だった。窓から流れ込む少し冷たい空気と入れ替わるように、外へ流れているであろう情事の証拠。
コップ一杯の水を飲み干して、やわらかいベッドに仰向けに倒れ込んだ。
部屋には贅沢にもベッドがふたつある。
だからオレは、ひとつをセックス専用にした。連れ込む相手は、二時間設定の見えないタイマーを背負ったアイツだけ。
ただの興味本意だった。好奇心だ。
「───うわ、飽きないなあいつらも」
「……そうだな」
同じクラスに、絶え間ない嫌がらせや陰口、陰湿なイジメを受け続ける人間がいる。ただ、本人は至って無反応で、何をされても反応がない。不登校にもならなければ、言い返すことも泣くこともない。
毎日同じ行動をしている。声も聞いたことがない。
頭は頗る良いらしかった。確かに見た目からのイメージは真面目で、真面目すぎてつまらないほど。
だけど、見てしまった。
「なあ、たまには俺の部屋でゲームしようぜ!」
「んー、ほとんどクリアしちまったしな」
「お前マジで実は隠れゲーマーだろ」
「ちげーよ、…ッ!」
一瞬だった。体に衝撃が伝わり、体が勝手に動く。よそ見をしていたのは自分だったから、無駄に良い反射神経に感謝しながらぶつかってしまった相手に触れた。
「……わり、だいじょ、」
「す、みません…」
間近に捉えたその目が、なぜか酷く揺れているように見えた。動揺や恐怖とかじゃなくて、まるで寂しさをそのまま表したような。
「……あの、」
「あ、悪かったな」
凝視したうえに掴んだままだった肩を離して再び謝罪すると、小さく大丈夫だと返ってきてそのまま行ってしまった。
小柄でもない平均的な身長の細身な体で歩いていく背中を、ただ見ていた。
「くっらー」
「……」
近くにいたダチの言葉に否定はない。だけどオレは見てしまった。知ってしまったのだ。あの冷めたオーラと人間の中にある、大きな寂しさを。
そして抱いてしまった。
あの寂しさを全面に引き出して、その本能を目の当たりにしてみたいという欲望を。
*
「───消してやろうか、それ」
「……は?」
放課後のがらんとした教室の机にだらしなく座り、真ん中の列の真ん中の席にいるヤツを見下ろして吐き出した言葉。
さすがに意味がわからなかったのか、示された反応にさらに沸き上がる欲望。
「消してやるよ、その寂しさ」
「寂しくありません。」
そう言って鞄を手に教室から出ようとするヤツに、また声をかけた。次で同じ反応ならやめようと決めていたし、しつこいのは自分自身嫌いだったから。
「んじゃ言い方変えるわ。…満たしてやるよ、本能」
「…ウソつき」
正直、予想外の答えだった。
自分で言ってちょっと引いたのに、相手は立ち止まって感情を露にぶつかってきたのだ。
思わず言葉が詰まったが、机から降りて距離を縮めていく。間近に来て改めて見るその目は、やっぱり寂しそうだった。
「二時間、オレにちょうだい」
「二時間?」
こんな会話を出来ると思ってなかったから、実際どうしようか考えながらの発言で色々と危うい状態だ。
「夜九時に部屋に迎えいく、」
「は、あ…?」
「ちゃんと出ろよ」
「ちょ、」
じゃ、と手を上げて一方的に話をつけた。意外にもオレは夜を楽しみにしていることに気づいた。
───夜九時ぴったりに部屋を訪ねれば、奴はラフな服を纏って出てきた。
「じゃ、オレの部屋行くぞ」
「…ぇ、」
「いーから」
華奢な手を引いて、静かな廊下を進み自分の部屋まで戻る。
自分がやろうとしていることに迷いはなかった。ただどんな反応をするのか知りたかっただけで、嫌われようがどうなろうがそんなことは気にならなかった。
「おじゃまします」
「どーぞ」
部屋に戻ってカギを閉め、薄暗い室内を訝しげに見回すそいつを引っ張って、やわらかいベッドに座らせた。
「まあ、拒絶しなかったってことは、本能を満たす方法を知りたいってことだよな」
間近にしゃがみこんで見上げたその目は、少しだけ動揺していた。
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