#1 passing in the night

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#1 passing in the night

学祭が終わると数日間の休みがあった。 結局学祭最終日のドタバタの後は、 理人と普段通りの会話をして… 解散して… それで… それでなんだっけ… …俺は理人を守りたいと思ってたのに。 うまくいかなくて… 強くなりたくて… この空いた溝を埋めたくて… いろんなことを考えていた… 春輝も黙っていたこととか教えてくれるっぽかったし、会ったら聞きたい。 考えてばっかりいた休みは休まった気はしないけど、やっと学校がはじまって解放された気分だった。 … すぐに登校してきた理人を捕まえて、 「おはよ!」 「あぁ、はよ…」 いつも通りに挨拶をして。 そう、聞きたい… 聞きたいことがあるんだ。 「なぁ、理人…学祭の時のさ…」 と俺が切り出そうとしたら、「これ封牙に借りてた漫画」と無理矢理話題を変えるかのように急に漫画を渡された。 「面白かったよ、特に4話目あたり?」 「わかる!こっから先が盛り上がるんだけど理人やっぱりそこ好きだと思っ…た……じゃねぇよ!!」 自分の話が遮られたのが気に入らなくて、 思わず声を荒げると周りのクラスメイトが視線を向けてくる。 「おい、どうしたんだよ」 理人がいつもみたいに接してくるから、 余計にむしゃくしゃした。 「……」 変な注目を浴びたせいか、 ちょっと悩んでから理人の腕を掴んで引っ張って屋上まで連れて行く、 その間理人は普通についてくるし嫌がる素振りもなかったのが余計に腹が立った。 変な違和感だけがあって、 屋上に理人を投げ込むように突き飛ばす。 「話、してくんないわけ?」 俺がいつもより低いトーンで話しかけると、 理人はマスクを軽く外して真剣な様子で顔色ひとつ変えずに俺を見つめた。 「…なんの話だ?」 胸の中がキュッと締め付けられる。 変わらない、変わらない距離。 あの日のことを、まるでなかったかのように… 春輝からも連絡が無くて。 休みの間…2人から何か言われるって、 待ってたのに… なんだよ、それ… 話してくれんじゃないのかよ… 「学祭の時のあれだよ、あの店も…なんで理人があんなことになったのかも…全部言ってくんなきゃワカンねぇよ!!」 待っていたせいか、 反動なのか、珍しく声を荒げると、 それに溜息をこぼして理人が「封牙には関係ないんだよ」と目も合わさずに言う。 「…巻き込まれた時点で、関係あるだろ!」 「ないんだって言ってんだろ!!?」 2人で声が荒くなっていく、 滅多に喧嘩なんかしたことがない、 でも、なんで…? …俺が弱いから駄目なのか? 結局春輝が居なかったらどうにもならなかったのかもしれない、でも俺が教えてもらえない理由が 全然わからない。 なんなんだよ。 「…もういい、理人には聞かない…」 「…勝手にしろ」 …そう言う言葉を吐き捨てられた瞬間、 俺の心の中が冷たくなっていった。 幼馴染だよね? 俺たちってさ…? こんなにも仲悪かったんだっけ? こんな場所で喧嘩するわけにもいかない… もういいや。 その日は、理人と話したりするのをやめた… 一晩考えたけどまぁ… いつも通りで、普通でいいか。 うん、いつか話してくれるだろうし… 決めつけもよくないよな… …きっと…話してくれるよな? … きっと… … 学祭が終わって、冬休みが近づいてくる。 変わらない。 変わらないまま時が過ぎる。 クリスマスさえも、 いつもみたいに戯れただけで。 …俺の中にただ、 ずっとあの日のことが引っかかっていた。 「春輝…連絡つくかな…」 学校にもあんまり来てないみたいだし、 話す間が無くて…電話したのだが出ない。 自分がまず春輝にどうやって話を切り出すのか迷ってしまったのもあり3コールぐらいで切ってしまった。 …自分で何とか調べようと携帯の検索画面を開く。 …なんだっけな、あのBARって… 名前が思い出せない… グーグルマップとか使えば出てくるか? 位置情報…ここをタップしたら… 出た!店の情報……何の店なんだろう。 詳しく店の情報を見ていると、 “男子限定”イベントというのを見かける。 なんでだ?女子限定ならよく見かけるけど… 変な感じ… 興味を持って不意にタップすると、 会員制・パスワードを入力と出てきてしまう。 会員しかみれないのか… 入会手続きとかって… いやいや、俺は何をしてんだ? …… …でも、知りたい… 教えてくれないんだし、 いいよな…これぐらい… 入会のボタンを押して、 自分の情報を入れる。 …返信メールがきて、 手続きが出来たことを確認したので、 パスワードを設定して中を見た。 「………男子の為の……出会いの場…?」 男子だけしかいないのに、出会い? どういうことなんだ? そのままスライドしていくとイベント内容で、 目についた言葉がいくつかあった。 「同性愛者」とか「LGBT」とか「セクシャル」とか、なんかよくわからないけど… 男同士で何かするって事? 更に検索画面でそれについて調べていく。 男性、同性愛… ゲイ?ってなんだ? …… 思わず写真を見て手が止まる。 男性同士がキスをしたり、手を繋いだり。 …変だとは思わない…けど… 思わず好奇心からから、 動画検索欄を見てゾッとした。 …こういうのを… 男同士がするのか… 理解がないわけじゃない。 男女間のイメージが確かに強いのかもしれないけど、…… …やばい、これ以上考えたり見たりしたら… よくない気がする。 でもなんだろう、 手が…止まんない… 思わずパソコンにイヤフォンを刺し、 動画をクリックした。 ……で、きるんだ… 男性同士が…こういうこと… あまりの衝撃で動画をじっと眺めてしまっていた、 偏見があるとか嫌悪感があるとかって言うよりも、 ……試したくなっていた。 …なんか、気持ちよさそう… そんな印象さえ、音や声で感じてしまっていた。 何やってんだろ… 心臓がドキドキと早く脈を打つ。 理人は…… 何、してたんだ… ここで… 良からぬ想像が浮かんで来てしまいそうになったのを無理矢理パソコンを消して考えるのをやめた。 不意に携帯に春輝から折り返しの着信があったけど、なんだか怖くなって… 自分からかけたくせに無視をした。 寝よう。 … 寝たら、明日には忘れる。 … そうやって布団に潜って、ゲーセンでとってきたぬいぐるみをぎゅっと抱えた。 …… … …どれくらい経つ?… 寝れない。 心臓がうるさい。 とまれ、止まれよ… 苦しい… 落ち着け… 考えたくないのに、考えそうになって、 居ても立っても居られなくなり、 もう一度パソコンを開いた。 …あのBARのサイトを開く「1月9日」イベントの日を確認して俺は予約のボタンを押す。 幸いにもちょうど冬休み…BARだけど年齢制限とかは書いてないから大丈夫だろう。 行きたい。 確かめたい。 何があるのか。 怖いより好奇心が上回る。 予約ができたからなのか、 そのあとはぐっすりと眠りについた。 … 1月9日 夕方 日差しが消えて寒さに町が吸い込まれていくような寂しさを感じた。 冬休み、 毎日が今日のことで頭の中がいっぱいで… 1人で来て大丈夫だったんだろうか… でも相談できるようなやつは居ない。 夕方店に向かう途中に、 他に何か買っておくものとか準備するものとか、 何かないかな…いらないか… いざって時に必要なものってなんだろう。 いや、BARで必要なもの? …飲むわけじゃなくて、なんか単純に雰囲気だけっていうか…危なかったらすぐ帰るし。 ってか、あれから来てないけど… あの時と変わらないなら絶対引き返すべきだろうし、あぁ…わかんねぇ… 考えたら考えただけ、わからなくなる… なんでこんな緊張してんの? ドキドキしちゃうんだ? …ただ、行くだけ、……なのに、足がすくむ。 …ゆっくりと目的地の看板を見上げた頃には、予定より1時間以上も、おしていた。 ふと中を覗き込むと至って普通な雰囲気で、 やっぱり男性ばかりだった。 イベントだし、当たり前なんだろうけど。 チラッとカウンターを見ると男性同士で手を重ねている。 思わず目の前にして、喉が渇いた。 なんでこんなとこに来ちゃったんだ? 立ち止まっていると受付の男に声をかけられた。 「君、イベント参加者かな?これ記入したら好きな席について…あとフリーなら赤、今付き合ってる人とかいるなら青のバッチつけておいてね」 「は、はい…」 とりあえず赤いバッチを受け取り紙を記入して席に着く、運良くカウンターの端の席が開いていて入り込むとすぐさま隣に男性が寄ってきた。 「隣いいかな?」 「え、あ…はい」 見た感じ悪そうな人じゃなかった、 普通にスーツだし、 サラリーマン? 「君、こういうとこは初めて?」 「あーー…わかりやすいですか?」 「そうだね、見たことない顔だったからね…」 そっと自分の髪を撫でられゾワっと寒気がする。 耐えよう、聞きたいことだけ聞いたら帰ればいい。 「この店って、男同士で交流するって感じなんですか?」 「なんにもしらないのかい?」 男の人が驚いた顔をしてそう言って 顎に手を当て悩むポーズをした後 簡単に説明してくれた。 所謂出会いの場、つまり恋人を探してる人とか… その日1日だけ身体の関係をもつとか… 男性同士だと中々捕まらないからここに集まって探してるということ。 …それを?? …理人も…やってたってこと? 彼女がいたりとか…そういうのは? …なんで? 最近別れたのって、彼女より男が良くなって… みたいな感じだったのかな? …話して…くれればよかったのに… 俺に別に隠す必要無いじゃん… 何がダメなんだ? 複雑な気持ちにため息をつくと、 急にスーツを着た男が手を重ねてきた。 「今夜どうかな?」 不意に時計を見ると日付を超えそうになっている。 やばい、終電が無くなる。 「俺はここがどんな場所か知りたかっただけなんで、そういうのは」 「今からだろう、教えるのは」 帰ろうと立ち上がるのを無理やり引っ張られた。 ヤバいやつに捕まったのかもしれない。 「私1人とは言わないさ、好きな人を選べばいい」 ぞろぞろと周りに男が集まってくる、 スーツを着た男は3人…振り切るのはちょっと厳しいか… 「帰りの電車の時間があるんで、…帰ります」 「ダメだよ…夜はこれからだろう?」 ぎゅっと腕を力強く掴まれイラッとしてくる。 「本当に、帰りますんで」 「君は男を知りたいんだろ?」 「違います」 「じゃあ行こうか」 すると他の男が俺の反対の手を掴み無理矢理引っ張ってきた。 凄い怪力だけどなんとか振り解けそうだし、とりあえず店の外に出たら走ろう。 そうやって、大人しく着いていくと急に後ろに打撃が走り世界が白くなる。 「ッ!!」 殴られた?! 「優しくしてあげるから、さぁ、行こうね」 ぼんやりした視界の中でさらに2人くらい人影が揺らぐ…人数で囲いやがって卑怯だな… 早く視界…戻れ…振り解かなきゃ… …嫌だ、やりたくない… あんな、動画見たいな… 怖い、怖い 怖い… 「あのさ、俺の店でそういう行為は禁止してんだけど…?」 どっかで聞いたような声が響いた。 「速川さん、そんなつもり…なっ…」 ガンッ!!!!と痛そうな音がする。 その衝撃音でハッと視界が戻るとアルミ缶のゴミ箱にさっきの男が頭を打ち付けたのか地面で頭を押さえながら呻いている。 「こっちは見てんだよ全部、監視カメラもあるし…テメェらがソイツを連れ込もうとしてる会話も全部録画してんだよ…」 「チッ」 1人の男は速川と呼ばれた男に向かって走り込み殴りかかろうとする。 速川…そうだ、速川… 俺も一回殴りかかった… 理人と春輝とここにきた時に確かにこいつは… 理人を…あんな風にして… 春輝に殴られて…で… ガウンッ!とさらにゴミ捨て場に1人の男が投げられる、速川は華麗な感じの動きで…何というか…… そう…スケート競技を見てるみたいに綺麗な動きだった。 軽やかな印象とは裏腹に重たげな投げ技は 柔道だろうか。 綺麗な決まり方をするものだから拍手しそうになって、手を握り拳にして降ろした。 … 「おまえ……なんで?」 速川に向かって不思議そうな顔をしてると、 すっと、彼は目を細めて「これで、あの時のことはチャラにして」と言って煙草を吸い始めた。 「…あの時…」 その瞬間、俺は思わず速川の腕を掴んだ。 あの時のことを1番聞けるのは今がチャンスじゃないだろうか、ここまで来て… 速川が居て… …なら、なら俺が知る権利は今じゃないだろうか。 「……なに?」 掴まれた手を振り解くわけでもなく、 じっとこっちを見ていた。 「…いや…なんでもない」 やっぱりなんとなく踏み込んだらダメかもしれない…手を離して背中を向けて歩き出す俺の肩に速川がトントンとしてくる。 「?」 「時間、平気?」 「………、あ…」 思えば時刻はなんやかんや1時近い…終わった… 終電がない、ホテルに泊まる金もさすがに無い。 最悪ネカフェかなぁ。 「こっち来いよ、店の裏…部屋あるし…スタッフルームだけど使っていいよ」 「え、あ…うん…」 思わぬ言葉にとりあえず着いていく。 さっき助けてくれたからなのか安心してるが、 まだ何かあるのかもしれないし…判らない。 警戒はしとくべきなんだろうけど… …何故か怖くなかった。 …寧ろ、呼び止めてくれたことに安心していた。 知らない街に一人でいるよりは… 裏手にあったちょっと狭い道を抜け、 扉を開くと簡単な部屋があり、 さっきのBARが見れた… 「……なんか、悪い…お金そんな無いけど」 とりあえず交通費を抜いて手持ちの出せるだけの金を渡そうとするとポッケに戻された。 「いらねぇよ、…てか、何でこの店に来た?」 急にベッドの上に座って俺に向かって言ってくる。 話したりできるのは願っても見ないことだ。 近くの椅子に腰を下ろして目線を合わせる。 「……友達の…話なんだけど…」 口籠もる俺を見て、 急にポケットから一枚の名刺を渡してきた。 「名乗るの忘れた、俺はこの店のオーナーの息子…速川雷(はやかわ らい)」 「….あ、俺は、不成封牙…」 思わぬ自己紹介に真面目に答えると「封牙ね、…宜しく」と言われ、冷蔵庫から瓶に入ったジュースとコップを差し出してくる…ジンジャーエールか… 「腹減ってんじゃ無い?デリバリーする?…適当でいいなら作ってきてくれるよ」 「あ、え…うん??…お金は?」 「だから、いらねぇよ」 軽く言われオーナーの息子だから、… という感じなのか… 堂々とした振る舞いと電話で適当に食事を作るように指示をしていた。 ……毒とか、盛られないよな? 「それで、なんでここにきたの…一人で…」 不意に現実に連れ戻されるかのような感覚。 …そうだ、聞かなきゃ… 「俺の友達の話なんだけど聞いてくれる?」 「…あぁ、いいよ」 俺は濁しながら理人が中々話してくれないことを遠回しに伝えてみる。 …バレる可能性は高いよな、理人を知っていたわけだ…春輝の知り合いだったわけだし。 …でも、どうやって返事してくれるのか気になる。 俺が話してる間に、 ポテトや、ナゲット、ピラフとか追加で飲み物まで運ばれてきた。 「…食っていいよ?」 と速川に言われたがちょっと難しい顔をしてると、先に一口食べてから「うまいって、普通に」と言って差し出してくれた。 お腹が空いていたせいでそれを見て、「いただきます!」と言ってからついついガッついてしまうと、 フッと笑って俺を見てる速川は悪いやつとは思えない…寧ろ… 「速川ってなんか…春輝に似てるな?」 と俺が口にすると急に目を開いて驚き、 顔から耳から真っ赤になって口元を隠した。 なんだ??? 思わぬ行動にピラフを食べていた手が止まる。 「馬鹿野郎…//」 ただ、それだけ言うと咳払いして、「友達だっけ?」と話を戻してくれる。 「あ、うん…そうなんだけど…」 うーんと、速川が考えるように天井を見つめてから、話を切り出した。 「この店が何か理解したなら、わかるんじゃない?その友達はゲイなんでしょ…」 「彼女がいるのに?」 「…ゲイって肩身狭いんだよ…堂々と男が好きなんです!なんて言って歩ける世界じゃ無いわけ…国によって殺されたりすんだぜ?」 「え、…まじ?」 思わぬ発言にびっくりする。 それなら隠す…のか? …俺にも隠す… まてよ…でも春輝には話してたよな… 「春輝もゲイなのか?」 俺が口にすると「それは無い」とスパッと速川に遮られるように否定された。 「…じゃあなんでだろ…」 「……理解者…なんだろ、普通に…」 なんだか変な空気が漂ってきて、 居た堪れなくなりジュースを飲み干す。 「…てか、どう思うの?」 「え?」 急に真剣に見つめられて緊張する。 「ゲイって…おかしいと思う?」 「……」 真面目に答えないといけないような、 嘘はついたらいけないような空気に緊張するけど… 「思わないよ。」 否定をして、そのまま続ける 「実際…はじめて知った時は、びっくりしたけど…気持ちいいのかな?とか…興味は湧いたりしたし…じゃなきゃここまでこないし…知りたいとは思った」 ありのまま俺が口にすると、 ゆっくりと近づいてきてキスをされそうになり、 思わず少し身体が後ろにいく。 何しようとしてんだ!? 急すぎて立ち上がろうとする俺を見て、 特に顔色も変えず。 「俺で良かったら試してみる?」 と言われて止まってしまった「え?」と声は出たが…今、この場で、あれを…やるのか? 動画を思い出して首を振る。 出来ない出来ない。 「いや、まだちょっとそういうのは何か…」 「そ?…まぁ連絡先は名刺にあるしいつでも連絡してよ…俺、結構いろんなやつとヤッてきてるし…初めてのやつにも教えてきたりしてるから…」 そっと頭を撫でられたが、悪く無いので、 そのまま速川を見上げる。 それだよ、それ…春輝に似てる…行動が…… ちょっと不恰好だけど… なんだか違うけど、似てる?似せてる? 不意に二人が喧嘩してる姿を思い出す。 嬉しそうだった……な…… 速川って、春輝みたいになりたいのかな? 机の上にある速川が吸っていたタバコのパッケージまでも見てみたら春輝と同じだし… 深く追及をするわけじゃないけど… なりたい…か… わかる、春輝の安定した感じ… 安心させてくれる感じというのか… 俺もなれたらいいのになって思う。 「わかった、なんかあったら連絡する」 「ん」 それだけ言って、速川が部屋を後にして行った、 朝目が覚めるとBARは閉まっていた。 首の後ろに暖かい枕があって、殴られたからか手当の代わりに置いてあったんだろう。 少しだけまだ痛い気がする。 速川の姿も見当たらないので、 受付にいたスタッフに声をかけてみると、 どうやら先に帰ったようだ。 俺はとりあえず連絡先にあったLINEに 今から帰る有難う。 …とだけ打ち込んで速川に送ったら。 すぐにスタンプだけ返ってきた。 悪いやつじゃ無さそうなんだよなぁ… また、来ようかな。 いろいろ教えてもらうのも悪く無いかも… ……また来よう。 朝の光に照らされたBARの看板を眺めたあと、 背にしてゆっくりと歩き出した。 … 連絡…ねぇな… 封牙ってやつの連絡を毎日携帯を見て何回も何回も確認してしまう。 …これは、“復讐”の機会に違いない。 どう考えても、理人ってやつと 封牙ってやつは、お互い好きあってる… 腹が立った。 …春輝からなんとなく話は聞いた、 真面目にBARも…経営してまわそうって決めた、 でもさ、 ムカつく、 幸せそうなやつが、心底嫌いだ。 壊してやりたい。 俺が手に入れられなかったもんを、 そう簡単に手に入れさせてたまるかよ。 ピコッと通知音がして、 携帯の画面を見てニヤけてしまう… 待ってたよ。 封牙がBARにまた遊びにくる… さて、どこまで落とせるか… 試してみようじゃんか… … 1月20日 速川がいる日を教えてもらい、 BARに足を運ぶ。 前回と比べたら足取りは軽く、 ちょっとした遠足気分だった。 階段を降りて行くと速川が待ち構えてくれていた。 「元気そうだな」 「うん、割とスッキリしたって言うか?…速川に話したから…かな?」 「…そ?」 俺と会話する速川も前に比べたら少し俺に対して心を開いてくれているみたいに軽い感じて話してくれる。 表情も柔らかい。 単純に日常会話が続く。 普通の友達みたいな、…普段何してるかとか… 好きなものとか、学校の話とか、 面白かった話とか、 テレビの話題で盛り上がったり。 すっかり、普通に笑ってて。 単純に楽しかった。 BARに来てる男性みんな、 何かしら悩みを抱えていて彼氏がって言う。 …彼氏…か… ちょっとだけ話題についていけないなぁと、 良い頃合いの時間になってきて、 「帰ろうかな」なんて呟くと速川が俺に近づいてきて「抜けない?」と言ってきた。 「…それって」 「そう、ホテル」 一瞬迷ったが、どうせ学校にも、 ろくに行ってないし…「いいよ」と小さく言って、 速川とBARの近くのホテルに入る。 受付にいる人の顔が見えなくて鍵だけもらって部屋に入る。 これがあれか、 はじめてきたけどラブホテルってやつ?? …年齢制限ってないんだろうか… あるよな、きっと… 小綺麗な部屋に淡くライトアップされて、 暖色のランプに眠気を誘われる。 「……風呂先入る?」 「あ、うん」 やばい、緊張してきた。 マジでやるの? 風呂場にテレビがついてるから不意につけてみたら男女の絡むシーンが流れてきて慌てて消す。 …ガチじゃん… 「はぁ」 思わず溜めた風呂の湯に顔をつける。 いやいやここまで来たわけだし、経験って言うか… 理人だって… …本当に…やってんのかな… …やってんだよな… …… ぼんやりしながら、 風呂を後にすると交代するように速川は風呂場へ向かう。 「…」 待ってる間が1番緊張する… …思いっきり布団に寝っ転がって項垂れると、 うとうとしてきたのか、一瞬で闇に落ちた。 …ギシッ と布団が揺れて、ハッと目が覚め見上げる。 そこにバスローブに変えた速川が、俺の上に来てじっと見つめてきた。 「…平気?やめとこうか?」 思った以上に優しい声だな。 そうか…初めての人も相手にしたりとかって言っていたから緊張してるのがバレてる? 「……どうしよう」 困ったように俺が言うと、そっと頬を撫でられる。 嫌じゃないけど擽ったい… 「キスは?出来る?」 「……どうかな」 「うわ、全部曖昧」 そんな態度は良くないのは、わかってる。 でも、多分…顔に出てるわけじゃないけど緊張なのか不安なのか心臓は脈を打っていた。 これは、あれだ…動画を見ていたときにこんな感じだった…怖くなる。 「……よし、こうしよう」 速川は、いきなりベッドに寝っ転がって。 「俺にしてみ?」と言ってきた。 「は、え?キスを?」 「そうそう、封牙が出来そうならやってみろよ」 「…う…」 なんつうか…ハードル高いこと言うんだな… 「…できんの?」 「できるよ」 なんか煽られてるみたいで、ムカついて胸ぐらを掴むようにして軽くキスをする。 …思ったより柔らかいな… …不意に目を開けると、思った以上に色っぽく笑うもんだから驚いた。 でもなんか、…なんだろう、切ない顔をしてる? 「やればできるね?」 「いや、これくらいはべ…」 と話してる最中に口を塞がれ「んんっ」と変な声が出た…待って待って、舌、舐めるのは無しだろ!! 「おい!!!」 突き放すわけじゃなく、自分から離れる。 「されるのは、あんま好きじゃない感じ?」 「え?」 「…いや、別に…」 速川は少し悩んだようにしていた。 暫くの沈黙の後、「今日は、このまま寝る?」なんて電気を消してくる。 ただ普通に一緒の布団に入って。 なんだろう… 温もりがあるっていいな… 「あったかいね」と俺がいうと 「……寄っていい?」と速川は聞いてくる。 「別に?」というとそばでくっついて俺の腕に触れながら目を瞑った。 「…まぁ、ゆっくりでいいんじゃね?」 「あ、うん…」 おやすみって小さい声がして、 不意に横を見ると速川が寝息を立てていた。 あれ?…緊張したのは俺だけって訳じゃないのかな…でもそうか、春輝の知り合いだし… 気を遣わせたりしてんのかな。 速川についてよくわかってないけど、 申し訳なさと、掴まれた腕は別に悪い気はしなくて、思わず反対の手で頭を撫でてみる。 もう寝ちゃったかな? 「春輝…」 と、はっきり聞こえた… 寝言?だよな? ………なんで?春輝?…どんな夢見てんだ? でもわかんない、撫でてあげると嬉しそうに笑ってるように見えて少し可愛く見えた。 男だけど…まぁ、なんかいろいろあんのかな… 俺と同い年らしいし…… …… いろいろこれから話聞けるかな… ぼんやり考えてると、 いつのまにか寝ていた。 … なんだか、甘い香りがする。 柔らかい光に包まれて、 俺は目を覚ました… 「おはよ」 隣で煙草を吸いながら速川はベッドの上で携帯をいじっていた。 「おはよ〜……」 目を擦りながら項垂れてみる、 学校行きたくねぇな… 不意に速川の手元のたばこを見て聞いてみることにした。 「速川さ、春輝の真似してるよな?その煙草…おんなじやつだよね?」 「っ!!!///」 またか、また赤くなってる。 恥ずかしいのか?? 「昨日俺にくっつきながら、春輝って言ってたよ?」 「は?!?う、…や、まっ…夢じゃねぇの?///」 何を言ってんだこいつは、 急に慌てるもんだから良くわからないけど、 春輝に憧れてるって感じなんだろうなぁ。 「…学校は?今から行くなら送ろうか」 「え?」 「バイク乗ってきてるから」 「あ…そうなんだ?」 「ま、本当はまだ2人乗りダメなんだけど」 「マジかよ」 バイクについて詳しいわけじゃないけど、 でもまぁ、送ってくれるならありかな… 学校行きたく無いなぁ… 「家までとかは有り?」 「いいぜ」 そんな会話をして速川とホテルを後に、 駐車場に降りる。 そこにあった一台のバイクには見覚えがあった。 「…あれ?春輝と同じバイクじゃない?…」 ヘルメットを渡されて驚く。 寧ろこれ、春輝のじゃね? 「…もっ…」 「も?」 急にバイクを動かしている手を速川が止めて顔を下にするから表情が見えなくなったが、 「…もらっ…た…//」 ニヤけながら言うし、なんか赤くなってるし。 本当面白いやつ。 「俺もこれに乗らせてもらったから、なんか懐かしくなった…春輝と仲良いんだな?」 「ま、まぁな…」 全然目は合わないが、嬉しいのが声でわかる。 憧れてる人からのお下がりは嬉しいか。 そうだよなぁ。 「……あ、そうだこれ」 急に何かの紙を俺に渡してくる。 これは…温水プール?チケットか… 「ここ貸切で行けるからさ普通に遊びにいかねぇ?急にいろいろってのもハードル高かったよな?」 「え、うん…」 「休みの日後でLINEして」 「わかった」 はじめてのラブホテルとやらは、何というか… 女子会みたいな男子会みたいな感じに終わったような感じだったのかな。 キスってどうなんだろ。 春輝は理人にしてた、俺だって理人にできた。 速川にだって出来る。 ……男とするのって、変なんだろうか。 …普通じゃないのか、 …じゃあ、俺は?普通じゃないのか? …わかんないなぁ… モヤモヤとまた気持ちが落ち着かなくなりながら、 速川に休みの連絡入れて、 近くの温水プールに行く事になった。 なんでプールなんだろ。 あっという間に数日後、 プールを眺めながら俺は疑問に思っていた。 「おいおい、なんでパーカー着てんの?」 「え?…別に」 いや、別にっていうか、ほぼ裸になるのは今抵抗あるに決まってる。 正直、速川は普通にしてるが目のやり場に困る。 なんで? 今までは…そんな事なかった… いろいろ考え過ぎてごちゃごちゃしてる。 平気…平気… ふと、速川の背中を見ると、腰のあたりにタトゥーが入ってるのがわかり後ろから触れてみる。 「ッ!//」 ビクッとして、俺の手をとり「なんだよ」と言ってくるあたりなんか男なんだけど行動は可愛く見えるんだよな。 「いや、タトゥーが入ってる?」 「あ…あー……」 何か歯切れの悪い感じになりながら、正面を向いて腰あたりの水着を少しおろし気味にタトゥーを見せてくる。 「これ、どうしてもってお願いして…春輝と同じやつ入れた…//」 だから、なんで顔が赤くなんだよ。 フッと笑ってしまう。 それを見て速川は眉間に皺を寄せ「今笑った!?!」なんてちょっと声を荒げた。 それを聞いて余計に笑ってしまう。 「くっそ、お前、いい加減脱げよ!!!」 「うわ、おま…やめ…」 速川が無理矢理パーカーを引っ張るもんだから、思わず突き飛ばすと、プールに落ちた。 「さいっあく!!!」 それを見て「ザマを見ろ〜」と笑ってると。 俺に両手を伸ばしてきた。 「上げろよ、手、貸して」 なんて、頬を膨らましながら言ってくるから「仕方ねぇなぁ」なんて手を取ったのが最後… ふわっと体が浮いたかと思うと背中からプールの水に打ち付けられる。 イッ!てぇ!!! 「っふぁ!!」 思わず水を少し飲んでしまい、速川が「ザマァ」なんて指を立て煽ってくるもんだから、そっからは乱闘になった。 お互い笑いながらも、 ただ戯れてるみたいな感じだけど案外悪くなくて。 寧ろ…… 楽しい。 理人の事でむしゃくしゃしたり、 悩んだりしていたけど、速川に会えてなんか、 よかったかもしんない。 寂しさを紛らわすみたいな。 そんな…そんな時間だったけど。 悪くは無い。 “いつも一緒”…理人とは付かず離れずで… …少し離れてみたら会いたくもなるけど… 心のどこかで苦しかったものとか会わないうちに消えていくような気がして。 … 「ありがとな」 唐突に2人で遊んだ後、 椅子に座って焼きそばを食べながら口にすると、 速川は驚いたように俺をみてくる。 「なんも…してねぇよ」 「いや、なんだろ…なんとなく?」 速川が目を逸らしてきたが、笑ってて。 …嬉しいのは何か顔を見たらわかる。 表情に出やすいんだな… 口で言ってる事と表情があって無いのが、 なんか、悪くない。 …ちょっと理人に似てるから…かな… …首から下げるクロスのネックレスとか、 …不意に思い出させるんだよな… …理人元気かな… 「どう?なれた?」 「え?」 焼きそばを食べ終わって速川は立ち上がる。 「裸見ても抵抗ないの?ってこと」 「あ、あぁ…さっきより?」 「そ。」 あれだけ遊んだ後だからってのもあるのか、 別に恥ずかしいみたいなものは無くなっていた。 …優しいな… 俺もなんか、してやれることあんのかな。 遊び疲れて… その後は、またホテルでゆっくり2人で眠って… ただ、普通の友達って感じが居心地が良くて、 離れた後もLINEでいろんな話をした。 2月に入ってBARに顔を出すと速川がカラオケ行こうとかって誘ってくるからホテル付きのカラオケに行って歌ったり騒いだりして。 でも初回のキスくらいで、 もう特に触れ合ったりは無くて、 単純に遊んで一緒に寝るだけを何回か繰り返してた… それだけなんだけど、 普通に楽しいから、 いろいろ考えてたのとか… なんかもう、どうでも良くなってた。 …、今だったら、なんだろ速川と出来そうな気がするくらいには気を許してるかも。 そんな風に思いながら、 自宅の布団に朝から蹲って寒さを凌いでいると LINEが入る。 『今日暇?スポッチャでバトルしねぇ?』 2月10日…朝から入った連絡に『行く』と返事をして着替えてから家を後にする。 自宅まで迎えに来てくれていたので、 バイクに乗って遊びに出かけた。 駐車場でバイクを停めながら疑問を投げかける。 「てかさ、スポッチャとか2人でくるとこなの?」 「…うっ……欲しいやつがあんだよ、付き合えよ」 「なにそれ、先に言えよ」 わざわざ遠回しにしなくてもいいのにな。 欲しいやつがなんなのかわからないけど… 昼過ぎからスポッチャのありとあらゆるゲームで遊ぶ…体を動かすのは気持ちがいい。 ダンスとか…三人で…やったのも好きだったし… なんて考えを頭に巡らせた瞬間に胸が苦しくなる。 考えちゃ駄目だ。 「封牙!!!?」 速川の声がして目の前にボールが飛んできたのに気づいておらず、 ぶつかる!と目を瞑ると瞬間的に速川が俺の前でボールをキャッチして地面に転がった。 「なぁに、余所見してんの」 息も絶え絶えに地面に転がった速川の横に座りこむ。 「あー…悪い、考えごとかなぁ…」 「休憩するか」 そう言われて2人でレストランでご飯を食べてから夕方になってる事に気付く。 「もうこんな時間か…帰る?」 「は?…あれは?欲しかったやつとか、…ホテルは?行くのかと思った」 俺の言葉に速川が驚いたような顔をしている。 いや、驚いてるのはこっちなんだけど。 「……今日は遊びに誘っただけだけど…まぁ、封牙が行きたいなら目の前にあるし行く?」 「え、あ…そうなんだ?」 「……」 急にじっとこっちを見られ目が合わせずらくなる。 「まぁ、いいけど♪」 なんだか嬉しげに笑っていて無性に腹が立つ。 別にホテルに行きたかったわけじゃ… …行きたかったの…かも… いろいろ思い出すと、寂しくて… 「…で?で?何なんだよ!!!」 「…あぁ…欲しいやつか…」 ちょっと考えるような素振りをしてから 「…ゲーセン付き合ってくれる?」 「ん?…いい…よ?」 その言葉は意外で、 別に何か…恥ずかしいようなことなんだろうか? 俺たちは、スポッチャに隣接されたゲーセンまで たわいもない話をしながら向かった… … 1ヶ月。 同じクラスなのに、全然現れない。 どこ行ったんだよ。 連絡?…できるかよ… 冬休みとか、 合わなかったことなんか無い。 …でも会いづらい。 会いたい。 普通に友達でいてくれたら、それだけでいい。 それ以上は望まない。 だから、封牙は俺と違って普通に生きてくれれば、 それでいいんだよ。 ………、軽蔑されたく無い。 気持ち悪いとか思われたく無い。 また普通に、一緒に笑ってくれんなら。 隣で馬鹿やって騒いでさ、 それだけで… … 「なんか?あった?」 最近援交をしてるやつが声をかけてくる。 目元を撫でて 「隈が酷くなってる」 甘い言葉で俺の目元にキスをした。 髪が長いのが珍しいから、封牙を思い出すからと遊び始めたら思った以上に自分に負荷をかけてたのかもしれない。 今日で最後にしよう。 「あーあ、こんなにたくさん採れたけど嬉しくなさそうだね?」 ゲームセンターの景品を俺に見せてくる。 心底どうでもいい。 「ホテル、いく?」 そう言われ「あぁ」と相槌を打った。 ベンチから立ち上がって歩き出すと向かいから見覚えのある、会いたかった顔のやつが歩いてきた。 …意外な人物と隣で… 「なんだよ〜…ぬいぐるみが好きなの?」 「ち、ちげぇよ…あれは特別」 封牙…なんで速川といるんだ? やばい、こっちに来る… 「りーちゃん?」 不思議そうに相手の男が俺の顔を覗きこんできて、 速川と俺は目があった?ような気がした…けど、 ん?無視…か?封牙は俺に気付きもしないで横を素通りした… 昔から鼻が効く…けど、 そっか、今日は香水がキツいから気づかない… って、俺は… …気づいて欲しいのかよ… なんだよ、 何考えてんだよ俺は… 「りーちゃん!」 少し大きめな声で隣から呼ばれ、ハッとした。 「今日、やめていいか?」 「……もう、やめていいか?の間違えでしょ?つまんないし帰る」 膨れながら歩き去っていく姿を見て、 頭を掻きむしった。 くっそ…訳わかんねぇ。 思わず振り返り2人の跡をつけた。 何で仲良くなってんだよ… 「よし、これだ…ちょっと待ってろよ…」 「とれんの?」 「うっせ!」 速川が何かのクレーンゲームにチャレンジしている…封牙は横で見てるだけだが、 取れない度に「違う、もっと右」「あー!左だよ!」とかごちゃごちゃ言っていて。 「わぁーってるよ!!!」 なんて速川が言っていた。 仲良いな… 反対側のクレーンゲームの端で2人を見る。 …近い… 隣に…並んでるのが、 …何で俺じゃ無いんだ? 何だよ…これ… 「もういい!変われよ!」 「は?採れんの?」 速川が言った矢先に封牙は1発で欲しかった景品を落とし「神かよ!やべぇ」なんて速川は封牙の肩を両手で掴みながら嬉しそうだ。 なんで、触る?身体に触れる? あの距離感…恋人じゃあるまいし? …なん…で… 「500円入れちゃったし、あとひとつ採れそうだけど…」 「あ、じゃあ…あの色がいい」 「は?注文してくんのかよ」 「封牙ちゃーん、なんか奢るからおねがぃ〜」 「キモ。」 そんなやりとりをしながらも笑っている。 もう一つ採れたやつを速川は手にして何回もお礼を言っていた。 「わかった、わかったよ〜…こんなの簡単だし、欲しいならいつでも採ってあげるって……」 「マジ感謝……一つは春輝にあげようかなぁ」 「いらねぇだろ」 「や!いや?そんな事ないかもしれねぇだろ??……じゃ、そろそろ行く?」 「あ、う…うん」 急に空気が変わるような感じがした。 2人がこっち側に回ってくるので、 焦って身を低くする。 ダメだこれ以上…二人を詮索して… 関係ないはずなのに… 「ホテルってどっちの入り口がいいの?」 「東だな」 …………は? その言葉を聞いて、 思わず走りそうになるのを堪える。 この近くで、東ゲートから出たホテル? …そういう…ホテルだよな? ……おい…なにやってんだよ…マジでさ…… 結局導かれるように2人の跡をつけると、 思いっきり目の前には入ってほしくなかったホテルがある。 そこに入っていくのを確認して、 胸のあたりの服を掴む。 気持ち悪くなってきて。 胃が重たい。 吐きそう… …眠いし… …苦しいし… ホテル入るか。 入り口に1番近い部屋に入ってすぐさまベッドに1人転がって、瞬間的に目から涙が溢れた。 泣くな、泣くな、 なんもまだわかってねぇだろ。 考えてんじゃねぇよ。 くそ… こまめに携帯のアラームをかけながら、 どうしたいのかわからないまま、 俺は深い闇に落ちた。 ……… ホテルに入ると速川は買ってきたオヤツとか酒の缶を広げた。 「てかさ、まぁ…封牙とべつに…SEXしなくても楽しいから遊べたらいいかなぐらいに俺は思い始めてんだけど……どう?」 急に酒を飲みながら速川が言ってきた。 「あーー…それは、俺も思ったよ?」 「……そ?」 とりあえず風呂に入りに行き、 体を洗っていると急に速川が入ってくる。 「えっ、、ちょっと!俺が入ってんだけど!?」 「もうべつに気になんねぇだろ?今更?」 そう言われて確かに怖いとかは無かった。 「……まぁ、いいか」 「よしよし、俺が洗ってやるぞ」 なんて髪をゴシゴシとシャンプーされ、 普通に気持ちが良かった。 「上手くない?」 「俺を誰だと思ってんの?」 「速川」 「おい」 このやりとりにも慣れてきた… というか割と楽しんでて、 お互い笑ってるのが空気で感じられるし。 泡風呂ができるらしいと、 風呂場を泡だらけにして遊んで、 なんかとにかく笑ってた。 風呂を後にすると、 髪を乾かしながら「封牙って酒飲めるの?」と聞かれるが、考えてみたら飲んだことがない… 「…わかんない、てか未成年だし」 「…良い子過ぎ」 それを言われて今まで理人に止められてきていたように感じた…そっか、飲もうとしたこともある。 煙草もやってみようとした… でも、20歳からだろって理人が言うから、 そっか…って我慢してたかもしんない。 考えれば考える程に、 別に従わなくても良かったけど、 なんでか裏切りたくないような気持ちがあった。 「飲んでみる?」 速川が缶チューハイを俺に差し出してくる。 「…」 それを手に取って蓋を開け飲んでみた。 「甘!」 「いけるっしょ?」 「うん」 別にジュースと変わらないような気がして、 2本、3本と開けて行った… …… 「それでさぁ〜理人がそんときにね〜??」 もう酔ってんなぁ… 不意に封牙が俺にベタベタと触りながら思い出話をはじめてきて顔も赤いのを見る限り、 … ……やってみる…か? いや… …やめとくか? と、ずっと心の中で自問自答を繰り返していた。 本当にこのままやるべきなのか、 俺は悩んでた。 …一生を台無しにしてやるぐらいの気持ちだった、 でも何だろう… 憎みきれない。 嫌いじゃない。 情が湧くってこういう事か? …何で俺が悩まされてんだ… 春輝の知り合いだから… だけじゃない… 春輝から怒られるなんて承知の上だったろ… なのに… さっき、理人ってやつがゲームセンターにいて、 俺たちをみていたのもわかってた。 こんな事、今まであんまりなかったのに、 “罪悪感”が芽生える。 今更?やめんの? …それもなんかムカつく… 「きいてんのー?」 封牙が俺の顔をペチペチ叩くから、 そのままベッドに押し倒す。 「…なぁ、やってみる?」 俺の問いかけに、封牙は暫く間があったが 頷いていた。 …同意…してくれたのか… そっと服に手をかけて脱がしていくと 「速川ぁ、優しいよね〜」 と言われてゾワッとする。 優しくなんかねぇよ、 お前の一生を台無しにしようとしてんだぞ…? 好きなやつとはじめてしたいよな? お前は俺じゃねぇんだよ… くそ、何でわかってねぇんだよ…… … 「速川?」 「は?」 その瞬間、封牙が俺の服を引っ張ってキスをしてくる、普通に舌絡めやがって… 最初は嫌がったくせに… 思わず深くキスを落とすと「平気」と言われる。 …どうする… 何故か俺がドキドキしてくるし… あぁ、ムカつくなぁ本当… …… そっとズボンに手をかけて中に手を入れると、 封牙がビクッと体を震わせるのがわかった。 …萎えてる…まぁ、そうだろうな。 怖い…よな… …そっと抱きしめて、「なぁ、理人にされてるの想像してみ?」なんて耳元で囁くと、 「り…理人?」 なんて言いながら、勃つ…じゃん… これ、確定だろ… 「そう、いいよ…気持ちよくなれるから、考えてろ…」 「うっ…まって…理人は…違…//」 思い切ってズボンを脱がせ、 俺は、それを咥えた…フェラなんかあんましないけどまぁ……これが一番気持ちいいだろ? 「駄目、それ…//」 「いい…から…」 「だっ…めっ…速川ッ!///」 !? 理人のこと考えろっていったのに、 何処まで…コイツは…お人好しなんだよ… 俺の名前なんか呼ばなくていいのにさ。 精射はされたが、 突き飛ばされたせいで思いっきりかかる。 「はぁ…はぁ…速川ぁ…」 気持ちよかったのか…理人って単語だけでかなり 効いちゃうんだよな…本人が知ったら、 凄い嬉しいんじゃねぇか… いや、俺は…… なにを      ……!!?! 考えごとをしてると、 封牙が俺をベッドに無理やり寝かせて、 形勢を逆転させ、上に乗ってくる。 「俺…速川に、お返しできてない…」 「は?な、なん??…いらねぇよそんな…」 「速川も好きな人のこと考えて?」 も…って、言ったな? …こいつ…理人が好きだって今自分で認めたぞ… その瞬間、無理やり唇を合わせキスをされる。 待って……、待て待て… なんだよこれ… つか、力!強!…動けない…クソ… … … …好きな人、、 思わず春輝のことが頭によぎると、 すぐ勃ちやがる… あぁ、もう本当… 俺が泣きそうなのを堪えると、 急に封牙が首筋を噛み始めた。 イッ…てぇ…力加減がねぇし…… 噛むか?…普通… っ……春輝…… うわ、、、 これ…春輝にやられてんの想像したら、 凄い、…やばいかも……気持ちいい… 思わず封牙が噛んでくるが気にせず抱きしめた。 「好きにして…いい…よ…」 そう言ってから、「理人…会いたい」とか泣きながら封牙が俺に噛み付いてくるのをただ抱きしめてやった。 …凄い…好きじゃん… 痛みに耐えながら、 いつの間にか、その泣き言を繰り返し聞いていたら、俺は深い眠りに落ちていた…… ……… …目が覚めると頭が痛かった。 速川と飲んでて、どうなったんだっけ? なんかよくわかんないけどスッキリはしてる。 ただ頭が痛くて… ……痛い… っ、!ん…??!…待って?!?服、着てない… そう思った矢先に速川から服を投げられる。 「……はよ」 地味に言葉をかける真があるのが生々しいのと、 肌けたシャツから見える赤くなった傷跡。 歯形。 「……お…はよ…」 やはい、噛んだよな…アレ…確実に俺だ… 「速川…その、さ…俺…」 「…いやぁ、昨日は…なんか凄く盛り上がっちゃってこの有様…どうしてくれんの?」 シャツを半分脱ぎながらニヤけながら俺に見せてくる、 うわぁ…すっげぇ…痛そうな歯形だらけ… もう酒は飲むのやめよう… 「記憶…ないんだよ…マジで…ごめん…俺何した?」 「……そ」 速川は、それだけ言って煙草を吸い始めた。 「……した…の?」 一番心配なのは、そこだ。 記憶にはない、でもこのスッキリした感じ… なんか嫌な感じ… 「もっかいしてみる?」 速川が俺に手をかけて触ろうとするから慌てて服を着る。 「わかった!わかったよ!やったなら、やった……ってこと…ね…///」 うわぁ…恥ずかしくて顔が熱い。 俺どんな感じだった? 記憶に無い。マジで。 なんて言ってた? いろいろ聞きたいけど… 「速川…//」 身体についた痕が申し訳なくなる。 「俺昔から噛み癖があるからごめん…」 「あぁ…いいよ、楽しませてもらったし」 「……たのし…?」 「まぁ、そんなに罪悪感あるなら舐めてよ」 そう言われて速川を引っ張って首筋の歯形のあたりを舐めると「っ…はっ…やっ//」なんて、甘い声で速川が鳴くからびっくりする。 思わず顔を見ると真っ赤になって、潤んでた。 今にも泣きそうじゃん… 「馬鹿野郎ッ!!!///」 何故か突き飛ばされベッドに転がる。 「やれっていったの、速川だろ?!」 「っせぇ!!!///」 トイレに向かいながら、速川は叫ぶ。 …なんだかその姿に思わず笑ってしまった。 まぁ、いいや。 なんか変な感じには… なってないし… 俺は男と出来るのか… そっか… なんかやっと納得したし、 気持ちが安定したような気がしていた。 ホテルをチェックアウトすると、 ホテルの出入り口の付近に今1番会いたく無い人がいた。 … 「理人」 ……
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