#2 passing in the night

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#2 passing in the night

理人は俺の手を急に掴んで来た。 強くて、今までこんな顔は見たことなくて。 痩せた?…なんか…あったのか? 「おい、説明しろ」 正直、怖かった。 怒ってる。 今までに無く…… 怖い。 … 「怖がってんじゃん」 速川が理人の手を俺から解くと 何故か反射的に走り出してしまった… 「封牙!!!」と理人の声がして、 わかんない、わかんないけど走った。 バイクの音がしてクラクションが鳴るから不意にそっちを見ると速川が俺にヘルメットを投げて走ってくる… 「飛び乗れ!」 無謀なこと言われたが、必死に走って俺は速川に飛びつくようにバイクに乗り上げると、速度を上げて理人からは遠ざかった。 それに安心してる自分が居て。 逃げるなんて卑怯だったかもしれないけど… でも話したく無くて。 気持ちの整理が追いつかなくて。 怖くて仕方ない。 家について布団に潜り込む。 楽しかったのに… 速川との時間は楽しかったけど、 理人に名前を呼ばれて急に辛くなった。 理人から鬼のように何回もコールだったり ラインだったりと連絡がくる。 …… 速川… どうしようってLINEで相談をしたら、 ちゃんと気持ちの整理ができたら話せよって返事が来るが。 …整理なんかつかない… でも、あの理人の顔を見たら… 心配な気持ちが優って… 「学校で話すから」とだけLINEをして、 理人からの連絡が止まったのを確認してから 眠りについた。 …… 朝目が覚めて学校に行くのも…足取りが重い。 一夜明けて速川に朝から「今日、話すよ」と送ると早めに「そっか。」と返事が来て安心する。 やばいな俺、怖くて怖くて速川に依存してる? …理人は、その間…誰か隣にいたのかな…? いやいや、何でそんなこと考えてんだろ。 わかんない。 でも心配。 悩んで悩んで学校についたのは、 もう下校する時刻になっていた。 教室に入ると理人が「来ないかと思った」なんて俺に言ってくる。 「…来た…じゃん」 と、ひとことだけ言って… 「学校だと誰かに見られたらだから…路地に行くぞ」 と理人に言われ頷いて歩き出す。 お互い無言で歩く。 居心地が悪い。 思わず速川に「今から理人と話す」と送って、 携帯をポッケに入れた。 携帯が震えたが通知は見ない。 大丈夫。 話せばまた、いつもみたいに笑えるよ。 そう思っていた。 … 裏路地に入り込み、 理人から第一声が 「速川とやったの?」 だった… 理人の吐き捨てるような言葉。 冷たい言葉。 寒空の下でただ、苦しかった。 「やった…」 そう小さく言った瞬間に、 理人は俺に向かって 拳を奮ってくる。 「ッ!」 受け身をとるが、すごく重たい一撃で、 体が後ろに2歩下がる。 「…なん…だよ、ふざけんなよ」 理人が怒ってるが、その言葉に逆に苛立った。 「ふざけんなよは、こっちの台詞だよ…理人こそ言うことがあんじゃ無いの?」 「は?」 俺に言うことあるだろ。 自分は散々隠してきたくせに、今更俺が何か隠し事をすればキレるとか、 ただの理不尽じゃん。 意味がわかんねぇよ。 「理人が何にも話してくれないから自分で調べたんじゃん…なんだよ、…理人こそ何してたんだよ…」 「……俺はいいんだよ」 「よくねぇよ!!!!!」 思わず理人の胸ぐらを掴んで路地の壁に押しやると 理人もやり返そうと掴んで俺を壁に無理矢理押し付ける。 ガシャンッ!!と音を立てながら壁際にあった荷物が崩れたが、お構いなしに俺は殴りかかる。 お互いが動きを見てきたから、 当たらない。 なかなか当たらない。 「くっそ!!!」 俺が路地に転がった荷物につまづいてバランスを崩すと理人の蹴りが鳩尾に食い込む。 あぁそう… 本気…かよ… 痛い。 手加減とか無かった。 怒ってる。 話す余地なんてない。 こんな風にやり合った事は今までなかった。 元はと言えば… 全部、全部、理人が話さないから… 「俺、男でもいけるわ…つか、速川いいやつだし…全然仲良く出来たッ…!!!」 鳩尾あたりを抑えて話しかけていたが、 理人は待たずに殴りかかってくる。 聞けよ。 人の話を。 話すことから逃げてるって言うのを肌で感じる。 もうダメだ、これは話すよりも 殴って言い聞かせるしかない。 “本当の事”を自分の口から言ってほしい。 人から聞いたり憶測で判断したくない。 幼馴染だろ? 隠し事するなよ… 俺は、ちゃんと理人のこと理解したい。 理人は俺と同じ気持ちじゃないのかよ。 なんで? 理人も男とやってたの? 理人にとっての俺ってなんだよ… パイプを使わないで向かってくるが、 怒り任せで読めない… 止まんない… いっそ、こっちも反撃に出るか… 「オラッッ!!!」 ムカついて突進をすると理人の体は容易く路地のドラム缶に投げ出される。 ゴッと鈍い音がしたように感じて冷や汗が出た。 今凄い体にめり込んだように感じたし理人の身体が異常に軽く感じる。 …不健康な身体…そんな感じだろうか… ちゃんと…食べてんのか? って、なんで心配してんだよ… 「っ…」 理人が立ち上がって俺をみる、 目が怖かった… マスクをしてなくて口元から血が滲むのがわかる。俺も理人からの連続的な打撃で身体中が痛いし顔面が痛い… 痣になるくらいには強く殴られただろうな… お互い一歩も譲らなかったが、 俺は、もう限界だった。 足もふらふらだし… 立ち上がるのが精一杯だ… 「つか…さ…俺の話ぐらい聞けよな…!!!」 せめて言葉だけでも何か届けばいいのに… 精一杯振り絞って殴りかかり壁に理人が打ち付けられると理人に足を引っ掛けられて思わず体が地面に 打ち付けられた… 「…!!」 今殴られたらやば…?い? 有利になってるのに、 理人が止まって見えた…肩で息をしてる… 躊躇したのか手がとまっていた、 俺をただ見つめて…目があって、 なんか苦しそうで… 俺は早く終わらせたくて、 居た堪れなくなって俺は理人に向かって、 思い切った一撃をキメた… …… …まじ…かよ… 思わず殴り合う2人を見つけて、 俺は頭を抱えた。 望んでた光景なのに、 なんか嫌な感じがする。 喧嘩を止めるか、 俺が? 何で? いいじゃん… 幸せなんてそんな簡単に手に入れられると 思うなよ? なんだろうか… 肌で感じる… ………羨ましい。 言っちゃいたい… お前らは、本当は… そう思ったら、2人のところに考えるより先に 走り出していた。 「おい!もうやめろよ!!!!」 俺が坂を降り、封牙の前にきて理人の攻撃を流すようにして理人の体を地面に落として転がすと息も絶え絶えになりながら俺を睨みつける。 「割って入ってんじゃねぇよ!!!クソ野郎!!!」 理人は血眼で俺に殴りかかってくる、 うわっ間に合わない… 腕で遮ろうとするが肩に打撃が来て、体が後ろに倒れ込むと、理人は俺にのしかかってさらに一撃決めようとするが封牙が横から理人を突き飛ばした。 「なんだよ!!!速川には口聞けんのかよ!!!…速川ぁ…なんできたんだよ…」 封牙がボロボロになって泣きそうな顔で俺に言う。 違う、そうさせたかったわけじゃ無い。 最悪。 いや、そうしたかったんだろ… 俺…なんで… 「元はと言えばテメェだよ速川!!!!お前何なんだよ!!!!」 理人が今までになく、 声を張り上げ俺に言ってくる。 体にビリビリと電気が走るように声が伝わる。 「なら……いいよ、俺が憎いなら俺を殴れよ!!!」 「は?速川!なんで?!」 封牙は、訳もわからなないと言った状況で 俺が立ち上がるのを急いで支えてくれたが、 すぐに離れる。 「…俺が、悪いから」 「…うぜぇ…わかってんなら、さっさとくたばれ!!!」 理人が俺に向かってくるのを、封牙が割って前に出て理人を殴り飛ばす。 「おい!庇ってどうす…」 「ばっかじゃないの!???理人なにやってんだよ!!!速川かんけぇねぇだろ?!??」 封牙、違うんだってば… 理人を怒るな。 全部俺なんだよ。 「もうしらねぇ!!!!」 理人が足を引きずりながら、歩いて行く後ろ姿を見て、封牙は地面に伏した… 嗚咽のような小さく呻くような声がする… 望んでた事が現実になったのに。 何だよこの虚しい感じ。 「封…」 「話したく、、ない…」 俺が話しかけるより早く遮られた… …封牙がどうしたらいいか分からないから、 話したく無いと言って動かなくなって… …ぎこちなく、言葉も交わさないまま隣にいたが、 数分経ってから俺は上着を封牙にかけて。 「そろそろ寒くなるし、早く帰れよ」 とだけ言ってその場を後にした… … …… 痛い。 体が痛いんだか、 心が痛いんだが、 もう嫌だ。 こんな感情。 捨てたい、 捨てらんない。 キツい。 地面に転がると、 冷たくて、涙が溢れた。 血の味がするのに、 しょっぱいな… 「理人…だよな?」 懐かしい声がする。 遅いんだよ。 本当、いつもいつも遅い。 「春…輝」 息が苦しくて絞り出した声に、 肺が痛くなる。 温かい手が俺の体に触れて、ぎゅっと抱えられる… 「救急車、呼ぶよ?」 「いらない…」 そう言ったのに俺を抱えたまま春輝の救急車を呼ぶ声がした… あったかい…… なんか、久しぶりに感じる… こういうの…なんだろう安心する 涙が止まんねぇ… 「春輝…苦しくて…」 「わかった、わかったから…喋るな」 優しくただ触れていてくれた温もりに溺れるように落ちた… 目を覚ますと俺は病棟にいた… ご丁寧に点滴まで打たれて… 「はぁ…」 息を吸うと、体が痛い。 暫く動けなそうだ。 「おはよ〜…林檎あるよ?」 春輝が可愛く兎に剥いた林檎を俺に見せてくる。 「…いらな」 と喋る前に口の前にちょんと当てられひとくち食べる。 「痛い!痛い!」 春輝が林檎のうさぎの声を代弁したようで、フッと笑ってしまう。 「笑わすな、イテェ」 「肋骨折れてるからね」 そう言って春輝が残りの食べかけの林檎を食べた。 「何があった?」 「…別に…」 話さなくてもわかるんじゃないかって思ったが、 春輝は無言になって俺を見つめてきた。 そうか、最近学校に居なかったし… わかるわけねぇか… 丁度良い、変にまた間に入られたら面倒だ。 「封牙は?」 「…」 歯を食いしばってしまう。 声が出ない… 「……連絡しとくな?」 「…」 「理人?寝た?…ま、いっか…」 余計なことを…と思ったが、 封牙もあんなにキレたのを見た事がなかったし… 病院には来ないだろ… 「またくるね」 そう言って春輝が去って行くのを目も合わさずに、 音だけ聞いていた。 … “理人、肋骨が折れてんだけど、        封牙なんか知ってる?” ただそれだけ、 春輝からのメッセージを見て、 やり過ぎてしまったことに手が震えた。 最悪だ。 もう合わせる顔なんかない。 春輝から住所も来てるが、 行けない。 俺が… やっちゃったんだ… 怒る理由が、よくわかんないし。 理不尽だし。 向こうが謝るまではって、 意地を張ったら、 こうなってて、 これ以上会っちゃったら、 また喧嘩になるような気がして。 …ハサミを見て衝動的に長かった髪を切る。 いらない、いらない。 なんかもう、… 全部やめたい。 いい子じゃねぇし、 俺は…… 不意に速川から勧められた酒のことを思い出す。 煙草吸ってみようかな… ファミレスで席を外した男性の鞄から煙草を取る。 窃盗なんて簡単に出来る。 俺だって…なんだって出来る… 家から持ち出した適当な鞄と、 今まで少しだけ貯めておいたお金を使いながら、 1週間喧嘩に明け暮れた。 なんか、全然埋まらねぇ、 速川から何度も連絡が来て無視をしてを繰り返した、今は誰とも関わりたくない。 俺が関わればろくな事がない。 中学だって、俺が居なければよかった。 理人だって、俺が居なかったら、 怪我しなかったのに。 大切なものさえ壊してしまうくらいなら、 俺はもういらない。 俺なんか… 俺なんか… お金が底をついてきて、 不意にネカフェで調べていると求人広告の高時給欄にある風俗というジャンルに目がつく。 男の相手、出来るんだし。 やってみよっかな。 てか、理人もやってたんじゃね? …そんな風に考える自分にまだ、 “理人”という単語から離れない事が無性に腹が立ってくる。 何で…消えないんだよ。 外に出ると、適当なチンピラなのか不良なのか、よくわかんない餓鬼が溜まっていた。 邪魔… ウザイ… みんな消えてくれ… そんな風に思ったが通り過ぎようとした瞬間、 向こうから話しかけて来た。 「オマエかぁ、俺の仲間ヤッてくれた奴は…」 出た、まるで連鎖のように。 俺がやればやるだけ、喧嘩をすればするだけ、 次から次に湧いてくる塵。 面倒なのに、 このむしゃくしゃした感情をぶつけたくて… どうしようもなくて、… 気付くと男達に取り囲まれていた…30人は…いるよな?…流石にいすぎて数えている間がないまま、 男たちが向かってくる。 集団リンチ。 …やばい、最近あんまりロクな飯を食べてないからなのか力が入らない。 「ッ!」 殴られて地面に体が打ち付けられ、 イライラとしてくる。 勝てる。 勝ちたい。 ただそれだけを考えて一心不乱に戦った。 その瞬間、ガンッと音がする。 俺じゃない…けど… 「伏せろ!」 と言われて、思わず身を屈めると頭の上でパイプが走る…理人?!? …っと思った矢先に、背中にトンッと少し重たいものが乗る…支えられないわけじゃない重さで、 勢いをつけて、俺から飛び降りた。 「アンタどうしたの?…最近このシマ荒らしてるやつでしょ?…へばってる?」 小さいオールバッグの少年は、 俺に向かって言ってきた。 「アンタの事情は知らない、でもこれは明らかに向こうの数が馬鹿馬鹿しいから、俺は今アンタに手を貸したい。」 そう言って手を出された。 パシンッと俺が手を叩くと、「よっしゃぁ!!!」と少年は軽々しく棒を振り回す。 軽やかに… …まるで理人…みたいな… ……… 「まぁーだ、いるし!速川、早くしろよ!」 「わぁってるよ!!!」 …速川?!?? 俺は思わず目を見開いた、寧ろ逃げたい気持ちに駆られたがそれよりも早く速川は俺の腕をとり 「封牙か?!?」 といってきた。 思わず振り向いて目が合うと、 凄く嬉しそうな顔で「よかった心配した」なんて笑うから急に涙が溢れそうになるのを堪えた。 俺、何やってんだ……? 苦しい… 速川の手を振り解いて男達に殴りかかっていく、 その間2人も俺に加勢していたんだとは思う。 記憶が曖昧だ。 ただ、なんだろう。 口の中が血の味がする。 痛いわけでも切れてるわけでも無いのに。 苦い血の味だ。 そう思っていると急に体を引っ張られ羽交い締めにされる。 掴まれた腕にギリッと痛みが走って視界が良好になると左腕をキツく噛まれ血が出ている事に気付く 痛い…痛い…イタイ… 「は…はる…き…」 ブワッと急に涙が溢れ激痛が走る「痛い!いたイッ!!!!」 と離れようとするが全然春輝は離してくれなかった。 「春輝さん!!!!」 とパイプを持っていた少年が声をかけると、 春輝が俺の拘束をゆるくするが、 全然力が入らない。 「イテェのわかったか?…封牙、オマエがやってきてることは…こんなイテェの………解るか?」 「ごめん…なさい……」 思わず自分の噛まれた腕から流れる血と痛みで春輝を見上げながら涙が止まらないし震えが止まらなくなる。 「封牙、どうしたんだよ…何で俺の連絡無視した?…俺に話してくれなかった?」 そう言って、 後ろから抱きしめられると、震えが止まった。 そういえば…春輝が前に俺が暴走したときに似たようにしてくれたことがあった気がする。 「俺が!!!!」 急に春輝の前に速川が座り込んで土下座をしてくる。 「俺が悪い、封牙は…悪くないんだ…2人が羨ましくて…俺が…」 「速川、顔上げろ」 春輝の声で速川が顔を上げると力強く殴られた。 音が鈍過ぎて今まで見てきた中では1番痛そうだ… 春輝……なんか…雰囲気が…変わった? 「ンなこと、聞いてねぇんだよ…テメェが悪いだけじゃねぇだろうが」 「俺が…」 「じゃあ約束破ったって事?」 「それは、違…」 「速川は、悪くない」 俺が春輝の手を掴むと、こっちを向いてきた春輝の目は冷ややかで怖かった。 …優しかった…イメージだったのに… なんか怖い… 「雅人、封牙を連れてウチまで連れてけ……ある程度の事は話していい…速川は俺と来い」 「「はい!!!」」 速川と雅人と言われた少年が同時に声を出す。 …どうなってる? 何で2人は春輝に従ってるんだ? 春輝と速川が去っていくのを見て、 雅人が俺の方に駆け寄ってきた。 「立てる?」 「…う…うん…」 とりあえず立ち上がるが、お腹が鳴った。 「腹減ったの?」 「……あー…所持金があんまないから」 「わかった、来て」 「?」 雅人が先陣を切って歩くと狭い路地を過ぎて裏通りにある中華屋さんに入る。 バンっと扉を開くと、 「チャーハン、エビチリ、野菜炒めと、焼きそば、ラーメンで!!!」 元気よく叫んでカウンター席に着いた。 店主は「あいよ、いつものね」と慣れたように雅人に言った。 隣に来るように促されて俺が席につくと雅人は嬉しそうにしている。 「この店のトップ5だから!絶対うまいよ?」 「…まって…桁が…」 メニューをチラ見すると一皿が2500円するようなものばっかで、 今頼んだ感じだと一万超えるような頼み方してたよな? まってまって、 「払えないよ??」 「いーんだよ、春輝さんのお金だし、俺たちはその分働けばいいから」 「……働く…」 「そう!働く!」 話してるうちに、次々と料理が運ばれてくる。 2人でシェアしながら食べたが、 本当にどれも美味しくて久しぶりにお腹が限界まで満たされた。 「……俺さ、坂垣雅人って言うんだけど…封牙だっけ?詳しいことは知らないし…事情は話したくなきゃ話さなくていいけどさ…春輝さんが家に連れて行けって言ったんだから、多分…俺たちの仲間になって欲しいんだと思う。」 … 「仲間?」 雅人からの話だと、 どうやらあるマンションでシェアハウスをしていて、そこでみんなで暮らしているんだとか。 光熱費や家賃がかかるわけじゃないけど、 少し危ないこととか… 危険な仕事があるってくらい… それをこなせるなら来て欲しいって感じか… 「……速川も、いるの?」 「仕事で不在が多いけどいるよ」 「……」 俺が複雑そうな顔をしながら、 店を後にして2人で夕方の道を歩く。 すると向かいから傷だらけの速川が歩いてきた。 さっきより痛そうなことになってるし。 凄い泣いた後みたいな顔で、 何があったんだ? ただ、悲しそうな顔でこっちに近づいてきて、 「雅人、買い出し1人でいける?封牙と話したいから…」 「いーよ、代わりに雪見だいふく今度買って」 「あぁ」 そう言って雅人は、 俺に「家で待ってるから」と耳打ちしてくる。 いい子なんだろうな。 雅人が去っていくのを見ながら、 速川が「嫌かもしんないけど…ホテル行こう?」 と指をさしてくる、嫌なわけじゃない。 単純に避けてた…だけだし。 2人でホテルについて、洗い流した傷や泥。 すっきりして布団に寝っ転がった。 「…封牙…俺さ、お前と理人の中をめちゃくちゃにしたくて近づいた…」 「え?」 急に真剣なトーンで話され困惑する。 「俺ね、中学生の時から春輝の事が本気で好きでさ…わかんないけど目で追っちゃうし付き合えなくてもいいからそばに居たいし…どうしようもなくて…苦しいんだ…」 「苦しい…」 まるで最近の俺みたい…だなぁ… 何で苦しいんだっけ… 今は別にそこまで苦しくない… 寧ろ速川の激白に驚いてる。 「春輝は…優しくてさ、そんな俺を見捨てないでくれるから…俺が道を間違えたら正してやるからって…だから今回のことも単独で勝手にやるなって怒られた…」 「……そう…なんだ?春輝とは、ヤったりは…ないの?」 春輝ってみんなに優しくしてたり、 女の子と距離が近い感じとか、 なんとなくだけど、もしそういう雰囲気になったらしてくれるんじゃないかって思っていた。 でも、速川は首を横に振る。 「…俺には、してくれない…」 「…えっ…なんで?」 「…わかんない」 悲しそうな顔をするけど、もう諦めたというような雰囲気がただ、その先に進むことを拒まれてるような感じがした。 「…俺ね、春輝をさ…攻めたくって…」 「攻め?」 「あーー…っと、つまり、こう?」 俺の上に乗ってきて押し倒すようにしながら。 頬に触れられる。 「俺の手の中で可愛がりたいみたいな…」 「…へぇ…」 「俺が全部してやりたいみたいな…そんだけ、好きでさ…」 「…」 パッと俺から離れて再び布団に寝っ転がる。 「そういう気持ちで必死に男とやっては、 この感情をぶつけて紛らわせてきた…お前も同じようにしようとしたし、理人と凄い仲良しだから羨ましいしさ…めちゃくちゃに壊そうとした」 そう言われて、俺は理解がついていけてなかった。 「そもそも、俺は理人と仲良くねぇよ」 言いたくなかったが口に出せばポロポロと本音が走る。 「速川は、そうやって自分の本心話してくれてんじゃん?あのわからずや…何も言ってくれないからワカンねぇんだよ…」 「………そう…だよな…」 速川は歯切れが悪そうに目を泳がせた。 「……俺さ、ごめんな…途中やめようって思ったけど結局…封牙とそれなりに…したくなってたりとか…でも未遂だから、中まで挿れたりしてねぇし」 「どういうこと?」 「単純に抜きあいっこ?しただけってやつ…最後までやるなら中に入れんだよ…これをさ…」 そう言って俺のをズボンの上から撫でるようにしてくる… 確かに…動画で見たような気がするな… 「俺は、中に挿れる派なんだけどな。」 「なんか違うの?」 「呼び方とかまぁ、いろいろ……知りたい?」 「………」 ふと悩んだ、男同士が別にいいとか、 そういうのは考えてなくて。 俺は、男同士でもできるんだ。 って言う所で止まっていた。 やりたいわけじゃない…けど… 「速川は、やりたいの?」 質問返しをすると、不意に腕をとられる。 「…俺さ、春輝の事が好きだけど…封牙の事は嫌いじゃないし…そ…れ…に…」 急に俯くと顔を真っ赤にしながら、 小さな声で。 「…お前が酒に酔ってる時に…好きなやつのこと考えていいよなんて言ってくるから…されるの避けてきたのに悪くねぇってなっちまったんだよ///」 そっか、男としては攻めたいみたいな気持ち。 わかるかもしれない。 俺がもし誰かとしようと思うなら、 やっぱりそっち側のイメージをしちゃうなぁ… 何というか、女の子…みたいっていうか… 理人みたいな感じなら… いや、まって、なんで理人…?! 不意に俺の顔が赤くなって、速川が驚いてた 「どうした?」 「い、いや…ちょっと想像しちゃったっつうか…」 「だから、どっちでもいいよ…どっち側だろうが教えてやるし…お前がいつか、好きなやつと出来る時にどうなりたいかで俺を使ってくれればいいよ…」 優しいけど… 「速川は、春輝としたいんじゃないの?」 「そっ…れは…そうなんだけど…触れてもくれねぇから///」 慌てる様は本当に好きなんだなって言うのが、 伝わってきて、不意に速川の胸に手を当てる。 凄い心臓の音が早い。 「……な、なに??」 「つまり俺が春輝の代わりみたいな感じで?速川は気持ちよくなれるかもしれないみたいな話?」 急に俺が簡潔的に言うとさっきより顔が赤くなる、 茹で蛸みたいだ。 「ま、まぁ…そ…そう//」 「……やってみてもいいよ?速川もそっち側?だっけ?される側の経験ないからどうなるか分かんないんでしょ?」 「うっわ…恥ずいなこれ…//」 今更口元を隠しながら蹲るもんだから、 笑ってしまっていた。 速川ってわかりやすくて、… なんで春輝が見捨てないのか分かる気がする。 … 何となくだけど。 きっかけが何であれ… 俺を嵌めようとしたらしいけど、 言われても許せるし、 今回は、どう考えても… それを回避できてない俺が悪い。 というか、速川が居なくても、 こうなっていたと思う。 俺があの場で複数人の男に囲まれて、 やっちゃってたとしても、 理人とは、こうなってた。 …速川みたいに、素直なら…… …こうやってさ、好きな人の話をしたり、 …もっと理人を理解できんのになぁ… 「どうしたらいい?」 俺が速川を押し倒すようにすると、 慌てて体を起こしてくる。 「そ!!そんなすぐやれってことじゃねぇよ…今日は別に、そういうつもりじゃ…!!?」 「できんなら、やってみてもいいんじゃね?」 俺が速川の髪をそっと撫でてみると、 小刻みに速川が震えている。 子猫みたい… 「お願いが…ある…//」 「ん?」 「さっきの、春輝がお前を噛んでたろ…そこ…舐めたい…//」 「あ、あぁ…いいよ?」 まだ少し痛む左腕を速川の前に差し出すと俺の腕を舐めながら目が潤んでるし、なんか凄い春輝の事となると赤くなっていて、 男なんだけどな…可愛く感じた。 擽ったい… 不意に速川のを見ると服の上からでも勃ってるのがわかった… 「触るんだっけ?」 とズボンの中に手を入れると速川はビクッと体を震わせるが、ゆっくりズボンを下ろしながら 「…ん…擦っとい…て?…つか、ごめん…春輝のこと考えてていいか?///」 「いいよ?」 寝っ転がる速川は俺の腕にしがみつくようにして傷跡を舐めながら俺の扱く手を掴んで 「強くても…早くてもいい…から、やって…///」 と言ってきたので、うまくできるか、 わからないけど適当に触ってやる。 「ふっ…ぅ…ぁ…///」なんて可愛い声を出すから、 色っぽい顔にドキドキしていた。 …男なんだけど、有りかも… …理人も、こんな…なのかな… …見てみたい… 「で、出る…から…待っ…て///」 俺の手を制御するが、「ホテルだしいいじゃん、出しちゃえば?」と言うと 即精射してしまい、 真っ赤な顔で「うわ、やっちまった…//」なんて枕に伏していた。 「全然平気なんだけど」 と俺が笑ってると、 「……才能あるんじゃね?//」 なんて唇を尖らせながら言ってきた。 「つか、速川こそ…される側?の才能あるんじゃね?」 「い!言うな!!!///」 バブっと枕を投げられ「照れてやんの」というと「クソッ!」なんてちょっと戯れてから、 俺の上に乗ってくる。 「…封牙もやってやるから、寝ろよ」 「いいよ、そんな気分じゃねぇし」 「嘘つけ勃ってんだよそれ…」 …そう、さっき理人がもし…とか考えたら、 不意に勃っていて、 でも生理現象ってやつ…なんだよな? 何にも考えてなくても、 日常でたまにあったりとか。 その後はお互い、抜きあってたり、 話したり、 …そうこうしているうちに、 いつの間にか眠りについていた… ふわふわと甘い香りが鼻につく。 そう、煙草の香りだ… 「はよ…」 速川がニヤッと笑いながら俺に手をあげる。 「うん…おはよう」 恥ずかしいとかは、全然無くて。 居心地が良かった。 「なぁ、封牙…行くとこないなら…来いよ…俺たちの家に…」 「……性欲処理するために?」 「バッカ!ちげぇ!///」 俺が、揶揄うと枕で顔を殴られた。 「…行く、もう行く場所もないし……暫くいろいろ探したい、考えたい…春輝ともちゃんと話したい」 「…そ…良かった…」 目を瞑ると、速川が頭を撫でてくれた。 なんか、疲れからやっと解放されたような気持ちだった… これからどうしたいのかは、分からない。 ただ何と無く、 理人に会いづらくて… 会いたい気持ちもあるのに… また喧嘩したり、怪我をさせるのが怖くて。 だから、少し…考えるのをやめたい… 今は、ただ、自分がやってみたいことを やってみたい。 服のポッケに入っていた盗んだ煙草に手を伸ばす。 はじめてのことばかりだけど、 俺が変わるための一歩なら… …… カチ、カチ、カチ、と時計の音がする。 病院にまた、奴が現れた。 「よぉ、理人」 雰囲気がなんだろう、ちょっと大人びた? 服だろうか… 「…何しにきた?」 「寂しいかなって思って?」 「寂しくねぇよ」 たくさんのお菓子を俺に渡してきながら、 マスクを摘まれる。 悪戯は前から頻度が高くて何も抵抗する気は起きない。 「ズレるからやめろ」 とだけ言うと「ズラしてんの」と言われた。 「それの意味は?」 「理人の表情が見たいから」 とすぐさま冷たく言われてゾッとした。 隠したい、隠したい… 俺の中では隠したい事が山ほどで… でも… 春輝は見透かしたような目で見てくるから、 ちょっと怖かった。 「封牙と喧嘩したんだろ?」 「ッ!」 ほら、結局バレる。 「…聞いたよ?速川から」 「速川…か…」 その名前を聞いて心底怒りが湧くのを抑えた。 「理人さ、自滅してるって気づいてる?」 わかってんだよ、そんなこと。 先に取られた… 取られた事が悔しくて、 封牙が自分から行くなんて思わなかったから、 俺は、 「俺、言ったじゃん」 「わかってんだよ!!!」 思わず声が荒くなって周りからの視線が痛く、 目を地面に向けるが、春輝に顔を無理矢理自分の方に向けさせられた。 「逃げんなよ、もう逃げんな…理人が逃げれば逃げるだけ遠ざかるぞ…好きなんだろ?」 「……何でお前はさ……」 悔しい… 悔しいくらいに、 見透かされる。 ずっと隠してきたのに。 誰にもバレないようにしてきてんのに。 「好きだけど、好きだからなんだよ」 「わかってるよ」 そう言って、春輝が俺の手を握ってしゃがみ込んで視線を下にしてきた。 「封牙は、俺のところにいる…暫く帰らないと思う…だけど絶対悪いようにはしない…何かあったら必ず話に来る…俺を信じてくれ」 真剣に言われて、スッと胸の中につっかえたものが消えるような気がした. 距離を少し取るのが…いいってこと…なんだよな… 「会いたいなら、いつでもあわせるから…」 「封牙が会いたくないだろ」 と俺が言った瞬間頭をぐしゃぐしゃにされる。 「なぁ、いい加減にしろよ?…そのネガティブな思考やめろ…勝手に人の気持ち決めつけて逃げてんじゃねぇよ」 「本当、春輝の言葉…嫌いなんだが…」 俺がマスクを外して笑いながら言うと。 「好きの間違いだろ?」 と嬉しそうに笑ってきた。 俺も少し、向き合う時間がいる…か… 「理人、困った事があったら俺に絶対連絡しろ…1人になるな…お前は1人じゃないから。」 「…あーもうわかったよ、さっさと行け」 俺が手で、春輝を避けるようなジェスチャーをすると手を振りながら俺に背を向け歩き出す。 「春輝…ありがとな…」 聞こえないくらいの小さな声で、 俺はその背中に感謝をして、 ゆっくりと反対側へ歩き出した。 END
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