旅の終わりに「1」

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旅の終わりに「1」

 春のやわらかな風が運んできたもの。(まばゆ)い夏の日差しが照らしだしたもの。  秋の風が奪い去り、凍てつく冬が、ときに浅くときに深く(うず)めていったもの。  夏には夏の、冬には冬の、頬を撫でる風の肌触りと、異なる色と、記憶が存在する。(きら)めくようなものも、凍えるようなものも…… ac31ed52-f220-4429-abbf-c67bb6842569  ふと立ち止まり振り返ってみる。戻れないほど遠くまで来てしまったのか、それともどこかに近づいているのか。  わからぬままに、それでも男はふたたび前を向く。それよりほかに道はないから。  移ろう季節がこの身に刻んできたものに、(いわ)く言い難い感情が心を揺さぶるときがある。 cf99f713-83e7-4cc1-bf82-9ffca0ec2889  そんなとき、男は誰かを思い浮かべる。  忘れるからひとは生きていける。  けれど、憶えているからこそがむしゃらに前に進む。傷口が痛まぬころ、思い出になったころを見計らい、そっとそっと振り返りながら前に進む。
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