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石狩挽歌
「おらあよ、でっけえことするからな。ニシン捕ってよ、でけえことをよ」
男は口にくわえたスルメを引きちぎった。
「あんた、大きいことなんてしなくていいんだよ。ニシンなんて博打だよ。悪いこと言わないからさ」
女は正座したままにじり寄る。
「何言ってんだおめえ。楽に暮らせるようになるんだぜ。やりてえことなんだって出来んだ。ニシンがよ、バンバン金を生むんだぜ。小樽によ、オタモイ岬によ、でっけえ御殿建てるんだぜ」
男はスルメを振り回す。
「あたしは今のままで十分だよ」
「うるせえんだよ。ニシンはよ、探さなくたっていいんだ。知ってるか? ニシンの居場所は海鳥が教えてくれるって知ってんのか?
ゴメがたかって鳴きゃ、その下にニシンの群れがいるんだ。簡単じゃねえかよ。おめえは番屋で飯でも炊いてりゃいいんだよ。
それによ、誰だと思ってる? 俺だぜ、俺がやるんだぜ。おめえ、俺を誰だと思ってんだ」
「そうじゃないよ。そうじゃなくて……」
「けっ! くそ面白くもねえ女だな。男の夢も分からねえでよ」
「あんた。あたしはね、あんたのそばにいられればそれでいいんだよ。ねえ、貧乏したっていいじゃないか。二人してまっとうに働こうよ。ね、子供つくってさ、仲良く暮らそうよ」
「俺はよ、やりてえようにやるんだ。おめえ気分悪りいんだよ。ほら、酒持って来いよ。酒だ!」
「あんた……もう、お酒を買う金がないんだよ」
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